もんごろねこの ちきゅうたび うたのにおいを かいでゆく

テキスト:3号室ロドリーグ


第9話 祈り、祝い、感謝する、季節の歌めぐり

ボリヴィア・アイマラ族
Grupo Aymara [Soul of Aymara] を聴く


3号の実家からいつもの下宿屋に戻って間もなく、幾度も大雪に見舞われた。
今もひたすら雪が降って、うんと冷え込んでいる。
聞けば氷点下らしい。
積もった雪の白さで、夜だというのに妙に明るい感じがしている。

「これでも暖冬なんだろか」

窓の外を眺めながら、3号がぼやいている。
確かに、今年は暖冬だ、とどこかで聞いたような気もするが…3号よ、ぼやいてみても始まらないのだよ、予報は予報、大いなる自然には所詮太刀打ちできないもんなのさ、と心の中で呟きながら欠伸をひとつ。
猫はそもそも夜行性だが、この頃ではすっかり3号の生活パターンに同調していて、昼だけでなく夜も眠ることが多くなってきた。もともと「ねこ」は「寝る子」から来たという説もあるから、そういう意味では私はやるべきことを実行している、ということになる。
そして、いつもなら好きな場所で眠るのだが、この季節だけはちょっと違う。寒さが苦手なので、必然的に温かい場所で眠ることになる。
ヒーターの温風が当たるところやコタツの中も魅力的だが、3号の寝床、つまり布団の中というのも、これがまあまあいい感じなのだ。彼女が寝返りをうつことを除けば、の話だが。
3号も、私が布団に入ってくることを、この季節だけは歓迎しているようである。彼女は「猫たんぽ」(!)などと言って喜んでいるが、私に言わせれば逆に「人たんぽ」(!!)なのだ。3号が先に入ってほどよく温まった布団で、私が温まるわけだから。
ま、どっちがどうだと言ってみても仕方のないことだが。

バカ話はさておき。
この季節は猫にとって、恋の季節だ。雄猫たちが雌猫に呼びかけたり、お目当ての猫をめぐって熱い戦いを繰り広げたりするのだが、さすがに大雪で寒いと萎えるのだろうか、ここのところ静かな夜が続いている。
私はといえば、昔に3号の勧めで(というか正直よく分からないうちに)大事なところを手術してしまったので、この時期は若干クネクネした気分にはなるが、熱く盛り上がって夜毎アオー、ナロー、と吠えるようなことはもうない。

「猫だけじゃなくて、人もこの時期は恋に関心がいくんだよね、バレンタインってもんがあるからさ」

寝床で本を読みながら、3号がぼんやりとした口調で言った。
好きな男性に、女性がチョコレートを贈るのだという。
何故チョコレートなのか、と尋ねたが、3号は首をかしげるだけだった。

チョコレートの原料はカカオ豆。カカオというとアフリカのイメージがあるが、実は南米のインディオが発見したそうだ。その豆からできる、茶色の苦い汁が体に良いとされ、伝説の神からの授かり物として崇められていたらしい。
それが時を経て世界各地を渡り、形を変え、今では女性から男性への贈り物になっているとは。

南米、インディオの音楽は、もちろん農作業の合い間の娯楽という一面もあるが、どちらかと言えば祭礼、儀式の音楽という感じがする。いわゆるフォルクローレと呼ばれるジャンルになるわけだが、土着的なものは太鼓と笛と歌のみというシンプルな編成で、暦に則って演奏されるという。曲だけでなく使用する楽器も、季節によって決まっているそうだ。

農作物の種を蒔き生育を祈る季節、雨乞いをする季節、成長を喜び収穫に感謝する季節…それぞれの季節に祭りを催し、歌い踊る。
低音で独特の鳴りがある太鼓を打ち鳴らし、凛とした笛の調べを四方に響かせ、力強い歌声で願いや喜びを語るのだ。
そこで奏でられる音や、歌のフレーズは、歴史の上でさまざまな艱難辛苦を味わってきたからなのだろうか、どこかもの悲しさを漂わせながらも、一般に言うフォルクローレとは一味違う、清々しさと明るさに満ちている。
彼らは祈りや愛情、感謝の念をその純朴な音楽で表現し、天の神・大地の神と交歓を続けているのだ。

かつては神からの授かり物が、今では愛を伝えあう日の贈り物になっている、その理由は結局分からずじまいだが、背景に、彼らが守り続ける大きな愛の灯火も、エッセンスとして盛り込まれていてほしいものだ。

ほどよく温まった布団の中、3号の腕枕に小さな頭を乗せて、そんなことを思いながら眠るのだった。


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3号よりヒトコト

カカオといえばアフリカとワタシも思っていましたが、起源は南米だったんですね、知りませんでした。
今回ロドリーグが語っているのは、ボリヴィア・アイマラ族の「グルーポ・アイマラ」のアルバムです。
フォルクローレと聞くと、ケーナにギターやチャランゴというイメージがありますが、ワタシたちの思うフォルクローレは、彼らの中では「ネオ・フォルクローレ」と呼ばれるそうで、より土着的なものは「ムシカ・アウトクトナ」と言うそうです。
グルーポ・アイマラは、自分たちの音楽的伝統の良さを発見し、もっと世界に発信しようと集まったアイマラ族の音楽家たちによるグループで、この「ムシカ・アウトクトナ」を得意としています。
ボリヴィア各地で音楽のみならず、生活や風習など多岐にわたり研究し、伝統のスタイルを大切にしているそうです。
ロドリーグも言っていますが、哀愁を帯びたフォルクローレというよりも、むしろ元気と安らぎをくれるような、パワフルなサウンド。自然のリズムや、畏敬の気持ちがそうさせるのでしょうか、笛の音ひとつとっても、とても風格のある感じがします。
ケーナやサンポーニャはもちろん、ワカ・ティンティス、モセーニョ、イミージャ、ピンキージョス、タルカ、シーク、プトゥトゥなど、様々な笛のファミリーが季節や曲ごとに登場するほか、ワンカラ、ボンボといった太鼓にカウベルや鈴、ラトルのような音も聞こえてきます。「コンドルは飛んでいく」のようなフォルクローレに親しんでいるワタシにとっては新しい発見でした。
ちなみに、世界的なシェアとまではいきませんが、ボリヴィアでもカカオは栽培されているようです。
アイマラ族が栽培しているかどうかまではちょっと分かりませんでしたが。
カカオ生産者については、ボリヴィアのみならず、不当な取引に苦しむ現地の人たちがいる、という話を耳にしました。
甘くておいしいチョコレートのバックグラウンドに、そんな苦い現実があることを知って、なんだか切ない思いです。愛のしるしとしてチョコレートを贈る行事の中に、そんな人たちのことも思える、大きな心があったらいいですね。

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ところで、ロドリーグもそうですが、猫はチョコレートを食べません。人が食べる
チョコレートを彼らが食べると中毒症状を起こすそうです。猫には犬猫用のチョコ
レートがあるらしいですが…

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