もんごろねこの ちきゅうたび うたのにおいを かいでゆく

テキスト:3号室ロドリーグ


第14話 シンプルで複雑な調和

南太平洋の島々
[South Pacific / Island Music]を聴く


この冬は例年にない厳しい寒さと雪に見舞われた。被害にあった人も多いと聞く。
人間さえ大変な目にあっているのだ、戸外で暮らす猫たちは、一体どうやってこの冬の寒さをしのいでいるのだろうか?
すっかり雪で真っ白になった庭をながめながら、より野生に近い、外の猫を気にかける一方で、もしかすると、こんなときばかりはイエネコであることはラッキーなことなのかもしれないと考えたりもする。
実はこのところ食欲が増して、自分でも驚いていたのだ。食べては寝るの繰り返し。これは来る厳しい寒さに備えて、皮下脂肪を蓄えるためだったのだろうか?3号が「肥満は健康を害する」と心配していたが…
また、このような厳冬ゆえ、温かい場所を見つけることにはいつにもまして真剣になった。童謡にもあるように、コタツで丸くなるのは言うまでもない。ヒーターから吹いてくる温風が一番心地よく感じられる場所も知っている。3号のベッドにもぐりこむタイミングも、すでに研究済みである。
3号の体温でほどよく温まった寝床(3号と一緒に入ってはいけない!必ず温まってからである)の、掛け布団と毛布の間にもぐりこむのが理想的である。毛布をよく踏み固めてから横になるのだ。
この瞬間の安堵感といったら例えようがない!

「まったく、人を湯たんぽ扱いして…」

3号が苦笑している。
何を言うか、自分だってなんだかんだ言いながら、猫と眠るのは心地よいと思っているくせに。お互い様である。

「こんなに寒いとどこか南の国へでも逃げ出したくなるけど…乗り物酔いする猫を連れていくのもなんだしね、せめて南の島の音楽でも聴きますか」

乗り物酔いする猫で悪かったな(しない猫もいるそうな)、とふてくされ顔でコタツの台の上に飛び乗る。手元のCDは透明なビニールの包装がされたままだ。

「イノダさんのところで前に買ったんだけど、そういえばまだ聴いてないなあと思って」

南太平洋の島々の音楽が収められているというそのCDのビニールを3号が取る。ビニールがヒーターの温風でひらひらと動くのをながめながら、スピーカーから流れてくる音に耳を傾ける…。

それは、イメージしていたよりずっと奥深いものであった。
聴こえてくる音の種類が、とてもシンプルで、暖かい。人の声に手拍子、打楽器や笛というならまだしも、船のへりや布、竹といった、彼らの日常にあるものまでもが音楽を作り出す。生活の中に当たり前に歌が溶け込んでいるのだ。
また、シンプルだからといって、決して薄っぺらではない。リズムや音の重ね方がその分とても複雑だ。その中でも特に驚き、また心地よいのがコーラスで歌われる歌たちである。
神や先祖についての荘厳な歌や、男声のロマンチックなラブソング、踊りのために歌われるエネルギッシュなもの、戦いの記憶を歌うもの、教会で歌われる南太平洋的なゴスペルなど…島や地域、シチュエーションによってさまざまなスタイルの歌が存在するが、ハーモニーがとても豊かなのだ。どのパートもとても生き生きとして聴こえ、とても平和な空気が漂ってくる。歌い手ひとりひとりの声の居場所がちゃんとあり、かつ全体のバランスも大切にされている。まさに「個」が「個」でありながら、謙虚で穏やかな笑みをたたえて、それぞれのちょうどよいところに佇んでいるかのようだ。その姿勢が声になり、とても美しい音の「和」を織り上げて、語り継がれる歌の世界を描き出している。
歌うどの声も、そこにあって然るべきなのだ。ありすぎても、また、欠けてもいけない。彼らは海という自然との生活を通して、きっとこの調和された、雄大で美しい何かを心根で理解しているに違いない…。
あらゆることのバランスが変化し、混沌とした中で生きている者にとっては、この歌たちは何とも神々しく聴こえ、しかし同時に迷路に迷い込んだような自分たちの現実も見せつけられるだろう。一体どうすれば、このシンプルで複雑で、かつ調和された世界に再びなれるのだろう、このカオスからもう一度この調和が生まれるのだろうか、と…。

心地よさと切なさを小さな頭の中でごちゃまぜにしながら、チラリと3号を見る。どうやら何かしら似たようなことを感じているのだろう。黙ったまま、ひらひらと動くビニールを左手でくしゃりとつかんで、遠い目で庭の方をながめている。

外はまた雪。
「全て真っ白に被ってやるから描きなおせ」と言わんばかりに降り続けている。
この雪が溶けて、新しい緑が芽吹く頃には、我々は彼らのようなバランスに向けて、果たして歩き出せているだろうか。

暖かな屋内にいても、イエネコでも、心がちりりと冷える夜もあるのだ。

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3号よりヒトコト

季節のせいもあるのでしょうが、珍しく「ちりりと」シリアスになっているロドリーグを、同居人としてはなかなかかっこよいではないか!なんて思っているところでありますが…
今回ピックアップしたのはnonsuch・エクスプローラーシリーズの[South Pacific/Island Music]というアルバムです。David Fanshaweが1970年代後半に、レコーダーと200本のテープを携えて南太平洋の島々を訪ね、収録した音源だそうです。豊かなコーラスワークの歌の数々はもちろんのこと、パワフルなパーカッションの演奏や、鼻で吹く笛やパンパイプの素朴な音色、アンサンブル、また生活の様子を思い起こさせるような、素朴でどこか懐かしささえ覚える歌やサウンドなど、バラエティに富んだ内容になっています。音の記録であるだけでなく、録音者の旅の記録でもあると言えるでしょう。南の島を訪ねたことのある人もない人も、録音者と共に旅をしている気分にさせてくれるアルバムだと思います。

このCDのサンプルが聴けるサイトはこちら