もんごろねこの ちきゅうたび うたのにおいを かいでゆく

テキスト:3号室ロドリーグ


第4話 大切な誰かを思う

アメリカ・インディアン その2
インディアンの子守唄
[under the green corn moon]を聴く


外は雨が降っている。どの窓を見ても雨だ。
そんなことを考えていたら、玄関先に人の気配がして、ブザーが鳴る。「宅急便ですー」と男の声。
「はーい」と、ちょっとめんどくさそうな3号の声。
ドアの向こうも雨なのか知りたくて、恐る恐る玄関へ行ってみるが、こちらは降っていないらしい。
しかし、届けられたダンボール箱は、ちょっとぬれているみたいだ。
やっぱりこっちも雨が降っているのか?
「玄関の外に屋根ついてるの、忘れた?」と3号が笑いながら、箱をキッチンへ運び、開ける。
箱の中には、いろいろな野菜が入っていた。ワタシの好きな猫用の缶詰も、いくらか入っている!
「電話しなくちゃねえ」
3号が電話をかける。
「もしもし、母さん?…うん、届いた…うん…」
ワタシも3号によじのぼって、受話器に向かって礼を言う。電話の向こうも雨なのか聞いてみたかったが、長くなるので、それはまた今度にしよう。

キッチンに戻って、箱の匂いをかぐ。3号も話を終えてやってきた。
箱の中身を取り出す3号は、いつも白いカシャカシャいう袋に入っている野菜を取り出すときとは違って、ちょっとうれしそうだ。
見た目は変わりないのだが、家族から送り届けられた、というだけで、何か特別なモノになるらしい。
ブツブツひとりごとを言いながらほくそえんで、野菜を並べたり、冷蔵庫にしまったりしている。

ワタシの家族は、いるといえばいるが、いないといえばいない。
父のことは全く覚えていない。母のことも、ぼんやりとしか思い出せない。
兄弟もいるらしいが、車で運ばれて、穴のたくさんあいた箱から取り出された後、彼らがどこへ行ってどうなったのか、知らない。
彼らも、ワタシがここで3号とこうして暮らしている、と、風のウワサにでも聞いているだろうか、それも分からない。
家族がどんな猫だったか、ということは記憶にないけれど、あの毛のやわらかさや一緒に眠ったときの温もり、匂い、毛づくろいしてもらった舌の感触、また、生きるのに必要なことを教えてもらった、とか、まあとにかくそういうことは覚えている。
だから、家族の思い出とかとはちょっと感覚が違うのかもしれない。日々の行動の中にそれが備わっている、とでも言おうか。
淋しくないわけではないが、血もつながっていなければそのものが違う3号が、今は家族だ。
互いが、ときによって親だったり子だったり兄弟だったりする。それは単に生きている長さとか、そういうもので計られるのではない、心というか、魂というか、そのあたりの感覚なんだろうと思う。

インディアンの子守唄を集めたアルバムで、[under the green corn moon]という作品がある。
人間が子どもを寝かせるときに歌う唄のことを、子守唄というのだと思って聴いていたが、どうやらそれだけではないらしい。
中には「これも子守唄なのか?」と思ってしまう、意外な歌詞もある。
つまり、これらは「大切な誰かを思う唄」、ラヴソングなのだ。
それも、男と女のかけひきみたいなもののない、純粋な、そしてやさしいラヴソングなのだ。

アズテック、カイオワ、ナヴァホ、ホピ、ポーニー、オグララ・スー、オネイダ・イロクォイ…
生活する地域や文化、また詞のスタイルが違っても、大切な誰かを思う気持ちに変わりはない。
ストレートに歌われるものにも、物語などになぞらえて歌われるものにも、気持ちはちゃんと込められている。
届いた野菜を取り出すときに、3号の顔に思わずこぼれた笑みは、何よりもあのダンボール箱いっぱいに詰め込まれた、3号を思う家族の気持ちのなせる技だったのだろう。そんな笑顔を想像させるような歌が、アルバムになっているというのは、なんだかとてもステキなことに思える。

誰かを大切に思う、というのは、シンプルで美しい感覚だ。
それが歌になって、時空を超えて届けられるとしたら、皆が大切に思い、また思われているということにつながる。本来はそうだったのだけど、そうではない今、これはすごいことだ!わくわくする!

ワタシには子守唄の記憶はない。それでも、母の懐で兄弟と眠ったときのあらゆる心地よさが、それに値するのかもしれない。
毛布を足でそっとふんでならしたり、顔をうずめたり、喉を鳴らすと体の中に響くあのゴロゴロも、生きて誰かとつながっていることの証と思うと、なんともいえない安らいだ気持ちで心が満たされていく。

さっきの、電話の向こうの声の主は、3号にどんな子守唄を歌って聞かせたのだろうか。
空になったダンボール箱を眺めながら、そんなことまでぼんやりと考えていた。


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3号よりヒトコト
インディアンの子守唄を集めたアルバム[under the green corn moon]は、伝統的なものから、歌い手の家に伝わるもの、教訓を含むものなど、多様な子守唄を聴くことができる1枚です。また、さまざまな楽器を用いて、シンプルながらも聴きやすい、雰囲気をイメージしやすいアレンジがほどこされています。
日本の子守唄というと、どうしてかちょっともの悲しい、あるいは淋しいイメージがありますが、このアルバムに納められている曲はどれも、リスナーを温かく包み込んでくれるような、素敵なやさしさに満ちています。
ジャケットにある、子どもを抱く母親のイラストもとても素朴で、深いぬくもりを感じさせます。
いい夢が見られそうな?そんなアルバムです。