もんごろねこの ちきゅうたび うたのにおいを かいでゆく

テキスト:3号室ロドリーグ


第6話 魂の糧

アメリカ・インディアン その4
タスカローラ&ヤキのアカペラグループ、ウラリ
[Mahk Jchi]を聴く


旅から帰った3号と共に、下宿屋に戻った。
秋もすっかり深まり、3号は「寒い寒い」とつぶやきながら、押し入れの中をひっかきまわしている。セーターやコートがパンパンに詰まった半透明の箱やヒーター、ちょっと気が早いような感もあるが、私の好きなコタツなど、次から次へと冬のアイテムがひっぱり出される。

「ああ、そっか、油も買ってこなくちゃね」
「あれえ?あのセーター、どの箱にしまったんだっけ…」
3号の独り言は続く。

私はといえば、すっかり毛も生えかわり、「衣替え」完了だ。
いつもの窓際で横になってくつろいでいると、「『猫の手も借りたい』って言葉、知ってる?」と3号が苦笑いしながらこちらを見ている。
はいはい、知ってますとも。しかしおあいにくさま、私の手、いや、前足は人間の手ほど器用ではないのだよ、かえって「足手まとい」というもんだ。

衣替えといえば、庭の木々もそろそろ葉の色を変えたり、葉を落として姿を変える頃だ。
彼らも着々と冬支度を進めている。
あいかわらずこの窓から話しかけても返事はないが、言葉を交わさずとも感じることで、なんとなく彼らのことを理解し始めている。
思えば、彼らの生き方はとてもシンプルで、ゆっくりで、自然のリズムに添っている。冬の冷たい雨風や雪と向き合うために準備をし、そのときが来るとただ静かに受け入れる。それを種によっては何百年と繰り返してきたのだ。
こちらから見ると眠っているようでも、その体内では生きるための糧が、脈々と根や枝をめぐっているというのだ、しかも我々のようにあくせくせず、悠々と。

窓の外を眺めながらそんなことを思い巡らせていると、例の古レコード屋でたえず流れていた歌のことが脳裏をかすめた。あそこにいたときは、そんなに意識して聴いていたということもなかったが。

それは決して欲張った編成ではなく、むしろ驚くほどシンプルだった。
3人の女性の声と鳴り物のみ、という構成。なのにとても重厚なイメージ。
歌は、メッセージを乗せて力強く押し寄せたかと思えば、包み込むようにやさしく流れていく。
その穏やかな繰り返しが印象的だった。
歌声は生き生きと芽吹き、茂り、花を咲かせ実を結び、やがて静かに葉を落とし、次の芽をそのふところであたため、また春が来ると芽吹く…まさしく季節が時をかけて景色を育むように、あるいは何か波のように、語りかけてくる。

歌う彼らの中に、いにしえから培ってきたリズムが未だしっかりと息づいているからだろうか、それとも「声」という、命あってこその楽器が奏でるものだからだろうか、歌は喜びや悲しみといった、いろんな感情を織り上げて、耳を傾ける者の魂の糧になってゆくのだ。
今思えば、あれは不思議な歌だった。それだから覚えの悪い私でも、こうしてふと思い出したのかもしれない。

あくせくとせず、あるがままの自分を受け入れて、穏やかに生きること。
それは美しい。しかし、今この世界でそのように生きるには、多少窮屈だったり、むしろとてもつらいこともたくさんあるのだろう。我々も大きな自然のめぐりの一部であったはずなのだが、いつしかその感覚を忘れてしまって、そのままにしてきたに違いない。
それゆえに、まるで鳥がさえずるかのように自然に湧き出る「声」に、なにかいい意味での「ひっかかり」を感じてしまうのだろう。
それならば、たとえしばしの間でも、その感覚を呼び覚ますような歌に心をまかせてもいいではないか。
すっかりイエネコになってしまっている私は、ぼんやりとそんなことを考えた。

やがて夕日が窓に差し込んでくる頃、3号の衣替えが片付いた。
前足を丁寧に毛づくろいしながら、チラリと3号を見る。

どうやら今の彼女には、心の糧よりも、空腹を満たす糧が必要なようだ。


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3号よりヒトコト

はい、確かに重労働?のあとはおなかがすきます。食欲の秋とか言いますしね。冬に向けての準備は食欲にもあらわれるのでしょう。かくいうロドリーグも、ここ最近かなり食欲旺盛なんですよ。

さて、今回登場した歌声の主は、タスカローラ族とヤキ族の女性3人で構成されるアカペラグループ、ウラリです。メンバー一人ひとりのプロフィールもすごいのですが(3人とも本当にすばらしい才能&活動歴をお持ちです)、そんなすごい人たちが3人寄れば文殊の知恵どころではありません!現代の音楽の要素も取り入れながら、しかし歌い継がれてきたインディアンのスタイルも大切にしている姿勢がよく分かります。声とラトルやドラムだけなのに、大迫力!聴かせてしまうのですから…引き込まれるのもムリありません。
ちなみに[Ulali]という名前は、さえずる鳥、ツグミをあらわすタスカローラの言葉からきているそうです。
その名にふさわしく、本当に鳥のように時にやさしく、ときに力強く、心揺さぶる歌声を聴かせてくれます。
タイトルチューンでもある[Mahk Jchi]は、前述のロビー・ロバートソンのアルバム[music for the Native American]にも収録されていますが、彼女たちのこのアルバムではドラムとヴォーカルだけというシンプルな構成で歌われています。