PAGE TOP

ミシオネスの風景(題字横、カラー) エイたち 横たわる男 ヒョウから逃げる男 メスヒョウ登場 ドラド エイと話す男 カピバラのカピくん ヒョウたち ヒョウ ヒョウ吠える ヒョウ ヒョウたちが川に突進 ライフルを運ぶカピくん

南米ジャングル童画集

  • 浅瀬をまもったエイ
  • 二匹のハナグマの子と二人の人間の子
  • しっぽをなくしたオウムの話
  • 目の見えない子ジカ
  • ワニ戦争
  • フラミンゴがくつしたを手にした話
  • なまけもののハチ
  • ゾウガメ
  • HOME

アルゼンチンのミシオネス州に、ヤベビリという名の川があって、エイがたくさん住んでいます。ヤベビリとは土地のことばで、「エイの川」という意味なのです。エイは幅広(はばひろ)で、平べったくて、長いひょろりとした尻尾(しっぽ)があります。尻尾は骨みたいに固く、それでたたかれたら怪我(けが)をします。尾(お)にはトゲがありそこから毒を出します。

ヤベビリにはたくさんのエイがいて、足先をちょっと水につけるのも危険(きけん)です。以前にかかとをエイに刺(さ)された人がいました。その人は家までの3キロの道のりを、痛くて声をあげながら歩きました。とちゅうで何度か、毒のために意識を失いかけました。エイにさされた痛みは、何にも勝(まさ)るほどなのです。

ところでヤベビリの川には、ほかの魚も住んでいました。その多くはおいしい魚でした。それで悪い男たちが、魚をとろうとダイナマイトを仕かけました。水の中にダイナマイトを入れて、爆発(ばくはつ)させたのです。その爆発で近くにいた魚たちはびっくりし、たくさんが死にました。大きな魚だけでなく、小さな食べられない魚までやられました。ダイナマイトでの釣(つ)りは、無駄(むだ)の多い残酷(ざんこく)なことです。

さて、この川のそばに一人の男が住んでいました。この男は死んだ魚を、中でも小さな魚たちをかわいそうに思いました。それで悪い男たちに、ダイナマイトで釣りをするのをやめるよう言いました。それを聞いた釣り人たちは怒(おこ)って、自分たちの好きなようにやる、と言いました。しかし男が何度もやめるようせまったので、最後にはその釣り人たちも従(したが)い、この川から出ていきました。

男が川べりにやって来ると、魚たちは集まってきてこの男に感謝しました。男がパイプを手に川べりを歩くと、いつもエイたちは川底をいっしょについて泳ぎました。男の方は、当然ながら、水の中に友だちがたくさんいるとは知りません。男はこの土地が好きで、ここに住んでいるだけでした。

ある午後のこと、一匹(ぴき)のキツネが川にむかって走ってきました。前足を水につけると、こう声をかけました。

「おーいみんな、エイさんたちよ、早く早く。あんたらの友だちがやって来る。大変な目にあってるんだ」

これを聞いたエイたちが、川のふちまで心配げに泳いできました。

「どうしたんだい? あのひとはどこ?」 エイたちが訊(き)きました。
「こっちに向かってる。ヒョウと闘(たたか)っていて、逃(に)げてくるんだ。向こうの中州(なかす)の島まで行きたいんだ。渡(わた)してやってくれよ、いいやつだからな」とキツネ。

「もちろんやるよもちろんやるよ」とエイたち。「ヒョウは、ぼくらがやっつける」

「そうだな、でもヒョウはヒョウだ、忘れるな」とキツネ。トラと闘うのと同じくらい大変だ、と言いたかったのです。言い終えるとキツネはピョンと跳(は)ねて、森に走っていきました。ヒョウが来たとき、ここにいたくなかったのです。

それからすぐに、茂(しげ)みをかきわけて、男が川べりまで走ってやってきました。血をだらだら流し、着ているシャツは破けていました。額の傷口から流れる血があごまで伝い、シャツのそでも血で濡(ぬ)れていました。ひどい怪我をしているのは明らかでした。男は倒(たお)れこむようにして、川の中に突進(とっしん)しました。男が足を水につけると、エイたちは尻尾がふれないように、脇(わき)によけました。島にむかって、胸まで水につかって男は歩いていきました。そして岸につくと、出血のため意識を失って、地面に倒れこみました。

エイたちはそこで男を哀(あわ)れんでいる暇(ひま)はありませんでした。男のうしろから、ヒョウがおおまたジャンプで追ってきていたのです。大型ヤマネコのヒョウは岸辺で立ちどまり、大きなうなり声をあげました。しかしエイたちは川を行ったり来たりしながら、こう呼びかけました。「ヒョウさん、ヒョウさん」 もし川を渡ろうとしたら攻撃(こうげき)しようと、川のふちに集まりました。

ヒョウは川のふちを見まわしました。そして男が中州の島で力なく横たわっているのを見つけました。ヒョウのほうも、ひどく怪我をしていて、血を流していました。それでも、男をなんとかして食ってやると、むきになっていました。もう一度うなり声をあげると、ヒョウは水の中に飛びこみました。

ところがすぐに、ヒョウは何百もの針で前足をつつかれました。そうです、エイたちが浅瀬(あさせ)をさえぎろうとしていたのです。そして尻尾の毒針でちくちく刺しました。ヒョウはポンと土手に飛んでもどり、そこで大声をあげると、前足を宙にあげました。地面につけると痛かったのです。少ししてヒョウは水の中をのぞきこみました。そこは黒い泥があるばかり。するとエイたちが川底をかきまぜながら、群れをなして現れました。

「あー、そーか」とヒョウ。「あー、そーか、おまえたちか、意地の悪いワルガキのエイだな。オレに針を刺したのはおまえらだろう。いいか、すぐにそこから出ていけ」

「ぼくら出ていかないからね」とエイたちが答えました。

「行けったらって、言ってんだろ」とヒョウ。

「行かないってば」とエイたち。「あのひとはいい人だから、殺してはだめです」

「いいか、あいつはオレに怪我をおわせた。懲(こ)らしめないわけにはいかん」

「あなただって、怪我をおわせたでしょう」 エイが言い返します。「それはあなたたちの住む森で起きたこと、川にいるあいだは、ここではわたしたちの仲間、あのひとを守ります」

「どっかに消え失せろ」

「ないのない」とエイたち。この子たちは学校にいったことがないのです。それで「ないのない」とか「ないはない」とか、小さな子がまちがって言うみたいに、「ないのない」と言ったのです。(エイたちは土地のことばグアラニー語を話すからだ、という説もあります)

「ふん、いまに見てろよ」と、ヒョウは大きなうなり声をもう一つあげました。そして大ジャンプをしようと、土手にかけあがりました。<エイたちは川岸にそって集まっている、もし川を飛びこえることができれば、エイの針にさわることなく、男のいる島につける>と考えたのです。

ヒョウが川を飛びこえようとしているのを見たエイたちが、口々にさわぎはじめました。

「川のまんなかに! 川のまんなかに! あいつはジャンプするぞ、あいつはジャンプするぞ!」
ヒョウは大ジャンプに成功し、水に足をつけましたが、痛みは感じませんでした。敵をあざむけたと思い、うれしくて大きなおたけびをあげました。ところが、すぐにこっちにチクリ、あっちにチクリ、前も、うしろも、右にも左にも痛みがはしりました。エイたちがまたヒョウをおそったのです。毒の針をつきさしたのです。ヒョウはもどるよりは進んだほうがよさそうだ、と考えて、前に進みました。しかし気づくと、エイたちは島のまわりじゅうを取りかこんでいました。しかたなくヒョウは、もとの岸辺にもどりました。

やっとのことでヒョウは岸辺にたどりつきました。地面に足のうらをつけないように、横たわらなければなりませんでした。痛みとつかれでハァーハァーと、大きな息をくりかえしました。意識もなくなりそうでした。毒がヒョウの脳(のう)にたっしたからです。

エイたちはこれで満足していません。岸辺にそって集まっていました。ヒョウには仲間がいると知っていたからです。そいつがやって来るにちがいないから、川を守らねば、と思いました。

そしてその通りになりました。すぐにメスヒョウがしげみの向こうからうなり声をひびかせて、夫を助けにやって来ました。メスヒョウは川の向こうの島に男がねているのを見つけ、それからすぐそばでハァーハァー息をしている夫に気づきました。そしてエイたちがかきまぜて黒くなった川を見下ろしました。

「エイさんたちよ」とメスヒョウが声をかけました。

「おや、おくさん」 エイたちが答えます。

「川をわたらせておくれ」 メスヒョウが言いました。

「ヒョウはここを通れません!」 エイたちが答えます。

「あんたたちの尻尾を全部かみきってやるよ」

「尻尾をかまれても、ここは通しません!」

「これが最後だよ、いい、ここからどいておくれ!」

「ないのない!」 エイたちがいっせいに言いました。

メスヒョウは片足を水につけました。一匹のエイが、前足の指と指のあいだを針でさしました。

「あいたっー!」 メスヒョウは声をあげました。

「まだ最低一本は尻尾があるってことだね」とエイたちはからかいます。

するとメスヒョウは顔をしかめました。ヒョウはいっしょうけんめいものを考えるとき、顔をしかめます。メスヒョウは、顔に深いしわをつくって顔をしかめています。なにかいいことを考えついたようです。しかし、それを口にすることはありませんでした。だまって土手をのぼって森の中へと帰っていきました。

しかしエイたちはメスヒョウが何をしようとしているのか、わかりました。川のはずれまで行って、エイのいないところを渡ろうというのでしょう。エイたちは恐怖(きょうふ)におそわれました。はやく泳ぐことがエイはできないのです。だから自分たちがつく前に、メスヒョウが先についてしまいます。

「あーん、あーん」 エイたちはたがいに声をかけました。「かわいそうな友だちがやられてしまう。あいつがつく前に、向こうにいる仲間たちに、ヒョウを渡らせちゃいけないって、どうやって知らせたらいいんだ」

すると小さくておりこうな一匹のエイが、こう言いました。

「金色ドラドたちに伝言をたのもう。ドラドたちは稲妻(いなづま)みたいに泳げるよ。それにあの子たちも、ダイナマイトをとめてくれたあの人に感謝してもいいでしょ」

「そうだそうだ。金色ドラドにたのもう」

ちょうどドラドの群れがそばを通りかかりました。それでエイたちはドラドにたくして、川にいるエイたちみんなに伝言を送りました。
「メスヒョウが川を渡ろうとしたら、針でさして! この浅瀬をメスヒョウから守るんだ」

ドラドたちはとてもとても速かったのでなんとか間に合いましたが、ぎりぎりのところでした。メスヒョウはもう水の中で、川の深みを泳ぎはじめています。実際、島にむかってもう届こうというところでした。ところが前足を川底につけて歩こうとしたとき、そこにエイたちがいました。かたまってメスヒョウの前足、うしろ足を、10ぽん、100ぽん、1000ぼんの針でさしまくりました。そしてメスヒョウと岸辺のあいだには、もっとたくさんのエイたちが結集(けっしゅう)していました。痛くて、腹だたしくて、メスヒョウは大声でなくと、もといた場所に帰っていきました。そこで痛い痛いと、声をあげてころがりまわりました。夫が寝(ね)ているところにやって来ると、前足もうしろ足も、毒のためにはれあがっていました。

いっぽう、エイのほうも、針でさしたり、行ったり来たりしてとても疲れていました。そしてヒョウの夫婦がとつぜん起き上がって、森に帰っていくのを見ると、心に雲がかかりました。こんどは何をしようとしているのだろう。エイたちはとても心配になって、集まって会合をひらきました。

「わしが何を考えているか、わかるかい?」と年寄りのエイが言いました。「森にいるヒョウを集めに行ったんじゃないだろうか。もしみんなでもどってきたら、わしらには手におえない、やつらは川を渡ってしまうよ」

「たしかに!」 そう言ったのは、年長の経験あるエイたちでした。「一頭や二頭は渡ってしまうだろう。友だちはそれでいっかんの終わりだ。あのひとのところに行って、話したほうがよさそうだ」

男が寝ているところまで、エイたちははじめて行くことになりました。ここまでは戦うのに忙しくて、男のことを考える暇がありませんでした。

友だちの男はたくさん血を流して、まだ地面に横たわっていました。それでもすわって話をすることはできました。エイたちは、男を食べに来たヒョウたちから、どうやって浅瀬を守ったか話しました。この魚たちが自分にかけてくれた友情を思って、男は涙を流しそうになりました。手をのばして、そばにいるエイの頭をなで、ありがとうと言いました。でもそのあとで、うめき声をあげました。

「あー、だめだ。きみらがぼくを救うことはできない。ヒョウたちはたくさんでもどってくる。川を渡ろうと思えば、できるはずだ」

「いいえ、できません」と小さなエイが言いました。「いいえ、できません。だれも渡れない、渡れるのはぼくらの友だち、あなただけ」

「あいつらはきみらの手にあまる」 男は悲しげに言いました。そしてこうつけ加えました。

「一つだけ、やつらをとめる手がある。もしだれか、わたしのライフルを取りに行けたら、、、ウィンチェスターと玉の箱があるんだ。だがここにいる友だちといえば、魚だけ、、、魚がライフルを取ってくるのはむずかしい」

「そうなの?」とエイたちは心配そうにききました。

「そうか、そうか、、、」 男がおでこを右手でこすりながら、何か思いついたように言いました。「あのね、前に一人友だちがいたんだ、カピバラくんだよ。うちで飼っていて、子供たちと遊ばせていた。あるときホームシックにかかって、森に帰ってしまった。いまどうしているか知らないけど、、、でもこの近くにいるんじゃないかと思う」

エイたちが喜びの声をあげました。

「カピくんなら知ってる、カピくんなら知ってる。この土手下のほらあなに住んでいるんだ。思い出したよ、あいつはあなたのことをよく知ってるって、いつか言ってた。あいつにライフルを取ってきてもらおう」

そう言うが早いかとりかかりました。群れの中でいちばんはやいドラドが、カピバラの住むところまで、川をくだっていきました。それほど遠くはありません。ちょっとして、カピバラが川向こうの土手にあらわれました。男は魚の骨をひろうと、自分の手の平の血にひたして、かわいた葉っぱの上に妻への手紙を書きました。

「わたしの妻へ。ウィンチェスターをカピバラくんに渡してくれ、玉を100発入れた箱といっしょに」

男が手紙を書き終えたとき、川いったいをゆるがす恐ろしいうなり声が響(ひび)いてきました。ヒョウたちが徒党(ととう)をくんで、川を渡りかたきをむさぼり食おうとやって来たのです。二匹のエイがすぐに川から頭をだしました。男が葉っぱの手紙を渡します。それを水の上にかかげて、エイたちがカピバラのいる向こう岸まで泳いでいきました。カピくんは葉っぱを口にくわえると、男の家にむかって、全速力で走り出しました。

カピくんはいっときも時間を無駄にできませんでした。うなり声はもうすぐ川の近くまでせまり、どんどん近づいてきます。エイたちは、近くで次の指令(しれい)を待っているドラドに声をかけました。
「はやく、ドラドくん。川のあちこちに行って、みんなに発令(はつれい)してくれ。エイみんなで島のまわりを取り囲め! ヒョウたちが来るのを見張るんだ」

川を上ったり下ったり、ドラドたちは川面(かわも)に黒いすじを引きながら、矢のようなスピードで泳ぎまわりました。エイたちが川底のどろの中から、岩のかげから、小川の口から、いたるところからあらわれました。エイたちはしっかりとかたまり、なんとしてもヒョウを渡らせまいと決意して、島のまわりほとんどを取り囲みました。その間、ドラドたちは島のそばで川を上ったり下ったりして、参加者をさらにつのり、ヒョウがあらわれたとき声をあげる準備をしていました。

そしてついに、ヒョウたちがあらわれました。ヒョウの群れが大きな声をあげて、土手まで走ってきました。100頭はいたでしょうか。ミシオネスの森に住む、ヒョウ全員が来たのです。しかしながら、川はいまエイたちでいっぱいです。一頭のヒョウも通すまいと、決死の覚悟(かくご)です。

                               

「そこをどくんだ!」 ヒョウたちがほえました。

「この川にはぜったい入れないぞ」 エイたちが返します。

「通さないか!」とヒョウたちがさけびます。

「でていけ!」とエイたち。

「そこからどかないと、おまえたち全員を食っちまうぞ。一匹のこらずどのエイも、その息子たち、その孫たちもな」 ヒョウたちが言います。

「そっちがそうなら、ヒョウというヒョウは、その息子も娘も、孫も、兄弟姉妹、奥(おく)さん、おばさんおじさん、一頭たりともこの浅瀬を通すわけにはいかないからね」

「これが最後だぞ、いいか、そこをどくんだ!」

「ないのない!」

そして戦闘(せんとう)がはじまりました。

バッシャーン、バチャバチャ、ザブーン、ものすごい水しぶきをあげて、ヒョウたちが川に突進しました。しかしヒョウが足をついた川底は、エイたちの固いからだでうめつくされていました。エイたちは針をヒョウのからだに突きさしました。チクリとさすたびに、ヒョウたちは恐ろしい鳴き声をあげました。ヒョウのほうはかぎ爪(づめ)で、エイを引っかいたりけとばしたり、ザブザブと水を跳ね上げてエイを宙に投げ飛ばしました。何百匹というエイが、ヒョウのかぎ爪で傷つき、ヤベビリの川面に浮(う)いていました。すぐに水はエイの血で赤くそまりました。でもヒョウのほうも、針でひどくさされていました。多くのものが岸辺にもどりました。そこで横たわり、はれた手を宙にもちあげて、うなったりヒイヒイ泣いたりしていました。たくさんのエイが踏(ふ)みつけにされ、引っかかれ、かみつかれはしましたが、川底はまだ固めていました。ヒョウの前足で宙にうちあげられることはあっても、水に落とされると、また戦いにもどりました。

戦闘は半時間もつづきました。ヒョウたちは疲れはて、岸辺にもどっていきました。そこですわって休み、前足にささったトゲをなめていました。

一頭たりとも、浅瀬を渡れたものはいませんでした。でもエイのほうもひどい状態でした。何千匹もがやられて死にました。生き残ったものも、疲れきっていました。

「またさっきみたいに戦うのは、むずかしそうだ」とエイたち。「おーい、ドラドくんたち、川を上りおりして、助(すけ)っ人をつれてきてくれ。ぼくら、ヤベビリにいるエイを総動員(そうどういん)しなくちゃ」

ふたたびドラドたちは、川面にすじを残しながら、川を上りくだりしました。エイたちはもう一度、男に相談したほうがいいと考えました。

「ぼくらもう長くはもちこたえらません」とエイたちが言いました。仲間の何匹かは、ヒョウに食べられようとしている友を思って、泣きはじめていました。

「心配しないで、お願いだ、わたしの小さな友だちエイくん」 男はそう言ってなだめました。「もう十分にわたしによくしてくれたよ。きみらの仲間がこれ以上死ぬのは、気の毒だ。いまとなってはヒョウたちを来させるしかない」

「心配はいりません!」とエイたちが声を高らかにあげました。「仲間の一匹でも生きている間は、ぼくらはあなたを守ります。ぼくらの命をダイナマイトから救ってくれた人を助けます」

「ああ、エイくんたち」 男がことばを返しました。「わたしはもう死ぬ運命にある。傷がひどい状態だからね。でも約束しよう、ウィンチェスターが届いたら、すごいことが起きるから。それは確かだよ」

「はい、わかってますわかってます」とエイたち。しかしそれ以上、話をつづけることはできませんでした。また戦闘が起きそうだったのです。ヒョウたちは十分休んで、いまずらりと土手にすわっています。川を飛びこえる準備ができました。

「ようし、最後のチャンスを与えよう。道理(どうり)をわきまえるんだな。そこをどくんだ!」 ヒョウたちがエイたちに命令しました。

「ないのない!」 エイたちは声をそろえます。岸辺にそってかたまって群れになり、ヒョウの前に立ちはだかりました。

するとヒョウたちは水に飛びこみ、さっきと同じ恐ろしい戦いがはじまりました。ヤベビリの岸から岸まで、川が赤い血でそまりました。何百ものエイたちが宙に打ち上げられ、ヒョウのほうはさされた手足の痛みに大声をあげました。しかしヒョウもエイも一歩もゆずりませんでした。

しかしながらヒョウたちは少しずつ、前に進んでいました。ドラドたちが、矢のような速さで川を上ったりくだったりして、残っているエイたちを呼び集めましたが、もう残っているエイは見あたりませんでした。ヤベビリのエイというエイは、島のまわりで群れになって死にものぐるいで戦っているか、傷つき血を流し、川を流されていきました。残されたエイはみんな、戦いで疲れきり死にそうでした。

とうとうこの戦いに負けてしまった、とエイたちは思いました。からだの大きな5頭のヒョウがエイの隊列をうちやぶり、澄んだ水の中を島にむかって泳いでいきました。エイたちは、友だちがヒョウに食われるのを見るくらいなら、死んだほうがましと思いました。

「島までもどろう!」 そうエイたちは口々に言いました。「島へもどるんだ」

しかし、ああなんということか、遅(おそ)すぎました。さらに2頭のヒョウが、エイの隊列をやぶって島に向かっています。そしてエイたちが島にむかって泳ぎだすと、岸にいた残りのヒョウたちも水に飛びこみ、島にいる男めがけて突進していきました。10、20、50、いや100頭近くのヒョウが水から頭だけ出して、泳いでいくのが見えました。

でも下流では何が起きていたでしょう。エイたちは戦うのに忙しくて、気づいていませんでした。少し下ったところの岸辺で、茶色いムクムクした毛の動物が水に入ろうとしていました。そして島にむかって一直線に泳いでいきました。それは首から上を水面に突きだし、口にはウィンチェスターをくわえ、力いっぱい泳ぐカピくんでした。ライフルが水にぬれないよう、頭を高くもちあげていました。ライフルのはしには、玉がつまったカートリッジベルトが引っかけられていました。

島にいる男は喜びの声をあげました。カピくんはヒョウたちよりだいぶ前を泳いでいました。男はヒョウたちが川を歩きはじめたとき、岸辺に近づこうとしました。そしてカピくんはもうすぐそこです。男はからだを動かそうにも、力がありません。それでカピくんが男のえりをつかんで引きずり、男は伏せの姿勢でヒョウと対面しました。この体勢で男は銃(じゅう)に玉をいれ、ねらいを定めました。

エイたちのほうは、心引き裂(さ)かれていました。押(お)しつぶされ、引っかかれ、打ちつけられ、血を流し、くたくたで、自分たちは負けたと感じていました。ヒョウたちはもう島に着こうとしています。あと少しで、友だちは生きたまま食われてしまうでしょう。

ドドーン、ドドーン、バンバン! その音にエイたちが水から顔をだすと、川から出て男にむかっていったヒョウが、大きく宙にはねあがり、ドサリと地面に落ちました。

エイたちは何があったかわかりました。「エイエイ・オー、エイエイ・オー」 エイたちがいっせいに叫びました。「銃がとどいたんだ。友だちは無事だ。ぼくらは勝った」 そしてエイたちは川底の泥をかきまわして踊りくるい、川の水をどろどろにしました。ドドーン、ドドーン、バンバーン! ライフルはもっと発射され、玉が音をたてて飛んでいきました。一発打つごとに、一頭のヒョウが砂地にたおれこみ、あるいは水の中に沈みました。でも銃撃(じゅうげき)は、2分とつづきませんでした。10頭あまりのヒョウがやられると、川にいたヒョウたちは、もといた岸辺にもどっていきました。そして森に逃げかえりました。

水の中で殺されたヒョウたちは川底にしずみ、そこでピラニアに食われました。水に浮かんでいたヒョウは、ドラドたちとパラナ川の合流点までいっしょにくだっていきました。ヒョウのごちそうにうれしくてうれしくて、ドラドたちは川面をピチピチと跳ねまわりました。

少しして男の傷はよくなりました。そしてエイたちは、毎年たくさん子どもを産み、季節が来るたび、その数を何倍にも増やしていきました。男はエイたちが自分の命を救おうとしてくれたことに、とても感謝していました。それで島に小屋をたて、休みがくるとそこで過ごすようになりました。夏の夜、月が出ていると、小屋の外に出ていって、川をみおろす大きな岩にすわり、パイプを楽しみました。川の底からそっとエイたちが顔をだし、男を指さして子どもたちにこう教えます。「あそこにいる人がそうだ。ヒョウがたくさんここを渡ってきたんだ。ぼくらはあそこで列をつくっていた。ヒョウがそこを通りぬけようとしたそのとき、友だちがライフルをだしてね、それから、、、」

ジャングル水辺の風景