▽葉っぱの坑夫おすすめの本△ <宮崎学の本> 1)「けもの道」「水場」「ワシ・タカの巣」 長野県伊那谷に住む写真家、宮崎学がセンサー付きロボットカメラなどを使用して、森に住む野生動物の生態や行動を追った心躍る写真集。漢字ルビ付きで子どものための写真絵本の体裁をとってはいるが、内容、表現ともに大人の読みものとして全く不足はない。宮崎学の仕事に興味をもった人は全体を見渡せて、最初に手にとる本としてこのシリーズ3冊はちょうどいいと思われる。 2) 「死 (宮崎学写真集)」 表紙とカバーの写真を提供している港千尋の写真集に「瞬間の山」という本があって、そこでは世界のさまざな地域が、ただ「その場所として存在している」風景が集められています。こういう世界の捉え方があったかと、とても新鮮でした。写真を見ただけではそれが沖縄なのか、南米なのかわからない。気候や地形、植生による場所の感覚が問題なのであって、そこが政治的にどこに属しているかはそれほど大きな問題ではない。地続きの感覚。混血の感覚。それと同じセンスが、「ホノルル、ブラジル」でも働いています。 最近の出会いでいちばんに上げたい作家グロリア・アンサルドゥーアも、この本で知りました。スペイン語と英語が入り混じる「Borderlands / La frontera」を、2種類の辞書を脇に置いて、ドキドキしながら少しずつ読み進めています。 トウモロコシ、トルティーヤ、唐辛子、ホピの人々、リオ・グランデ、プエブロインディアン、ソノラ沙漠、コヨーテ、マデイラ、アソーレス、タロイモ、ポイ、リオ、セルタンゥ、プエルトリコ、ハイチ、マカオ、チャイナタウン、、、、このような言葉で本は埋めつくされています。 1)「最後の場所で」(A Gesture Life/1999年) 韓国系アメリカ人チャンネ・リーの長編小説です。海外のコンテンポラリー作品を集めたクレストブックのシリーズの1冊。日本では海外の小説がたくさん翻訳されていて日本語で読むことができますが、案外アジア系作家の作品を読む機会は少ないのではないでしょうか。 チャンネ・リーは1963年ソウル生まれ。3才のときに両親に連れられてアメリカに渡ります。この「最後の場所で」は2冊目の著書で、主人公は老年にさしかかった日系アメリカ人のドク・ハタ。ニューヨーク郊外の小さな町で医療品の店を長年営んだ後に引退、今も町の人々から礼節ある、尊敬されるべき人間として扱われ平穏な日々を送っています、そのように見えます。 小説はドク・ハタの現在の日々を語るモノローグで始まります。が、その折々で回想される別の時代の、あるいは家族をめぐるエピソードは不穏な影と波風をたてながら、隠されていた過去をあらわにしていきます。 不安定で不確定な生(その一つの理由は属している共同体から外れたアイデンティティをもつため)を描いているという意味で、このページで紹介しているもう一人の移民作家ナイポールとの共通点が感じられます。 <Ari Marcopoulosの本> 1)Even the President of the United States Sometimes Has Got to Stand Naked アリ・マルコポロス (著) ハードカバー (2006/03/15 Jrp/Ringier) 「アメリカ大統領ですらときに素顔をさらすことがある」という長いタイトルをもつ、ある意味で革命的な写真集。去年の秋にニューヨークのMoMA P.S.1で行なわれた個展にともない出版されたもの。ここ数年の著者の生活(カリフォルニア州ソノマ在住)の周辺、家族のドキュメントが、激しく美しく捉えられている。 アリ・マルコポロス:アムステルダム生まれ。写真家、映像作家。ニューヨーク・タイムス、インタビューなどの新聞、雑誌、ワールドクラスのスノーボーダーやビースティボーイズなどポップスターのドキュメント写真などで知られる。一方でインディペンデントな出版や展覧会にも旺盛な好奇心で、精力的に参加している。 ●amazonのページでこの本を見る 2)Transitions and Exits アリ・マルコポロス (著) ハードカバー (2000/10/31 Juno Books) ワールドクラスのスノーボーダー・キッズたちのツアーとその周辺をドキュメントとした素晴らしい写真集。試合に望む前の緊張の時間帯やオフのときの解放を同じ空気を吸った写真家がまっすぐに捉えている。宿舎のホテルでのはじけた表情、あどけなさを残した孤独な横顔。少年たちとともに旅をし、たくさんの時を過ごした写真家が、人が生きることの真実を映像でくっきりとみせている。巻末の著者インタビューには写真家としてのスタンスが真摯に語られていて、それも感動的。 ●amazonのページでこの本を見る <梅田望夫の本> 1)「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」 梅田望夫著(2006年、ちくま新書、777円) インターネットが日本で普通に使われるようになって約10年。あたりまえの日常のツールになってしまった感があるけれど、最近になって何か面白そうなことが起こりそうな予感がして、あらためてまわりをきょろきょろと見回していた。というところに、ドンピシャリこの本と出会った。やはり、そうなのか、大変なことが起きつつあるんだ、今気づいてよかった、それがこの本を読んで感じたことだった。 いつも使っている検索エンジンGoogleのむこうに広がる荒野、時々お世話になっているけれどあまり深くは考えていなかったフリー百科事典のウィキペディア、そしてamazonやオープンソースのこと。一番衝撃を受けたのは、これからの世界を二分する「こちら側の世界」と「あちら側の世界」という視点だった。ビル・ゲイツ?ホリエモン?みんな「こちら側」の人々です。では「あちら側」には何が、だれがいるのか。 人間の善意を基本として生きるか、そうではない生き方に身を寄せるか、そんなことも考えさせられる1册だった。インターネットの潮流、あるいはこれからのビジネスの話ではあるけれど、自分の人生の選択肢、打開法をさがしている人にも何かヒントがあるかも。 ●amazonのページで「ウェブ進化論」を見る <V.S.ナイポールの本> 1) 「ある放浪者の半生」V.S.ナイポール著・斉藤兆史訳 (2002年、岩波書店刊、2500円) カリブ海トリニダード生まれのインド移民三世の作家、ナイポールの最新長篇小説です。インドというもの、そこに流れるメンタリティを外からの目で、ある意味公平に冷淡に描いた作品と言えるかもしれません。物語はインド国内にとどまらず、主人公の人生の放浪にともなってイギリスへ、アフリカへ、と流れ出ていきます。その放浪性は、物語のなりゆきの中だけにあるのでなく、この作家独特の語りの手法にもあらわれています。率直な語りは読みやすく、魅力的であり、これが2001年ノーベル文学賞作家の作品なのかという、驚きと興味をわかせるに充分な一冊です。 ●amazonのページで「ある放浪者の半生 」を見る ●葉っぱの坑夫のこの本に関するレビューを読む
<木坂涼の本> 1)「刺繍日記」 木坂涼・詩、ミヤギユカリ・画 (2005年、理論社刊、1200円) この詩集を片手に、散歩に出たくなるような本です。 気持ちを広げてくれる(ミヤギユカリさんの赤い線だけで描かれた)ドローイング、こころを遠くに飛ばしてくれる(日常のことを書いているのに、いつのまにか広い世界に出てしまったような木坂涼さんの)言葉。ひとつの詩の世界、ひとつの絵の世界。別々なところが、それぞれすくっと自立しているところが気持ちいい。そういう二つの世界がひとつのことを成してしるところに感動。 *別のページの紹介文、中の画像を見る ●amazonのページで「刺繍日記」を見る |
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