▽葉っぱの坑夫おすすめの本△


<宮崎学の本>

1)「けもの道」「水場」「ワシ・タカの巣」
  (森の写真動物記 1、2、3)
  宮崎学著 (2006年〜2007年、偕成社、各2100円)

長野県伊那谷に住む写真家、宮崎学がセンサー付きロボットカメラなどを使用して、森に住む野生動物の生態や行動を追った心躍る写真集。漢字ルビ付きで子どものための写真絵本の体裁をとってはいるが、内容、表現ともに大人の読みものとして全く不足はない。宮崎学の仕事に興味をもった人は全体を見渡せて、最初に手にとる本としてこのシリーズ3冊はちょうどいいと思われる。
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2) 「死 (宮崎学写真集)」
   宮崎学著(1994年、平凡社、4200円)
写真家、宮崎学が求めて、あるいは生息調査の途上で出会った、動物の死の(死体の)ゆくえを、秋、冬、春の三つの季節で追った写真集。

本のテキストより:
  9月のなかば、亜高山帯の森に老いたニホンカモシカの死体が横たわっていた。(宮崎学「死」/秋の死、より)
  モモンガの生息地を調査しているときに、雪に埋もれて、ニホンジカが一頭ひっそり死んでいるのを発見した。(同/冬の死、より)
  5月初旬、ヒノキの植林地にタヌキの死体が雨にうたれていた。(同/春の死、より)

ページをめくるごとに胸躍る真実との対面、登場のキャラクターがシデムシやハエ、死肉を喰うタヌキやカケスであっても、そこには暴力や残酷さのイメージはない。静かな森の時間と、時の経過とともに形を変え、最後には白骨だけになる命の姿がまっすぐに写っている。最後に残された体毛でさえ、小鳥たちの大切な巣材のために持ち去られ、あとはバクテリアが分解、死の痕跡は何一つ残らない。なんという合理性、さわやかな一幕。
(葉っぱの坑夫のレビューより)


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<管啓次郎の本>
1)「ホノルル、ブラジル 熱帯作文集」
  管啓次郎著(2006年、インスクリプト、1600円)


管啓次郎さんはジェメイカ・キンケイドやル・クレジオの翻訳で知られる非常に個性的な翻訳家です。翻訳家であるばかりでなく、「コヨーテ読書」「オムニフォン」などの素晴らしい本も書いています。わたしは訳書も持っていますが、言葉について、世界(カリブ海だったり、メキシコだったり、南米だったり、ホットでマイナーな地域、旧植民地や移民の国が多い)について、直接間接に見聞きしたこと考えたことを綴ったエセー集の熱心な読者です。「ホノルル、ブラジル」は今までの著書の中でもとくに心躍る素晴らしい本で、語り口にも現われているホットさは、熱帯作文集の名の由縁にも見えてきます。この本の中ではアリゾナも、ニューメキシコも、ホノルルも、ブラジリアも、カリブ海も、マオリの地も、宮古島も、同じ地平、地球上の一地点として描かれています。文学や食べもの、音楽や風景、気候や人々を通して語られるそれらの地域は、<国境>で隔てられてはいない。野生動物や渡り鳥の軽さで越えられ無化され、つまり、たぶん、「国」のもつ意味より「地域」のほうがずっと濃いのです。

表紙とカバーの写真を提供している港千尋の写真集に「瞬間の山」という本があって、そこでは世界のさまざな地域が、ただ「その場所として存在している」風景が集められています。こういう世界の捉え方があったかと、とても新鮮でした。写真を見ただけではそれが沖縄なのか、南米なのかわからない。気候や地形、植生による場所の感覚が問題なのであって、そこが政治的にどこに属しているかはそれほど大きな問題ではない。地続きの感覚。混血の感覚。それと同じセンスが、「ホノルル、ブラジル」でも働いています。

最近の出会いでいちばんに上げたい作家グロリア・アンサルドゥーアも、この本で知りました。スペイン語と英語が入り混じる「Borderlands / La frontera」を、2種類の辞書を脇に置いて、ドキドキしながら少しずつ読み進めています。

トウモロコシ、トルティーヤ、唐辛子、ホピの人々、リオ・グランデ、プエブロインディアン、ソノラ沙漠、コヨーテ、マデイラ、アソーレス、タロイモ、ポイ、リオ、セルタンゥ、プエルトリコ、ハイチ、マカオ、チャイナタウン、、、、このような言葉で本は埋めつくされています。
(k.d.)


 

表紙(本体)とカバーに使われている港千尋の写真が素晴らしい。



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<チャンネ・リーの本>

1)「最後の場所で」(A Gesture Life/1999年)
  チャンネ・リー著(2002年、新潮社クレストブック、2300円)

韓国系アメリカ人チャンネ・リーの長編小説です。海外のコンテンポラリー作品を集めたクレストブックのシリーズの1冊。日本では海外の小説がたくさん翻訳されていて日本語で読むことができますが、案外アジア系作家の作品を読む機会は少ないのではないでしょうか。

チャンネ・リーは1963年ソウル生まれ。3才のときに両親に連れられてアメリカに渡ります。この「最後の場所で」は2冊目の著書で、主人公は老年にさしかかった日系アメリカ人のドク・ハタ。ニューヨーク郊外の小さな町で医療品の店を長年営んだ後に引退、今も町の人々から礼節ある、尊敬されるべき人間として扱われ平穏な日々を送っています、そのように見えます。

小説はドク・ハタの現在の日々を語るモノローグで始まります。が、その折々で回想される別の時代の、あるいは家族をめぐるエピソードは不穏な影と波風をたてながら、隠されていた過去をあらわにしていきます。

不安定で不確定な生(その一つの理由は属している共同体から外れたアイデンティティをもつため)を描いているという意味で、このページで紹介しているもう一人の移民作家ナイポールとの共通点が感じられます。


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<Ari Marcopoulosの本>

1)Even the President of the United States Sometimes Has Got to Stand Naked
  
アリ・マルコポロス (著) ハードカバー (2006/03/15 Jrp/Ringier)
「アメリカ大統領ですらときに素顔をさらすことがある」という長いタイトルをもつ、ある意味で革命的な写真集。去年の秋にニューヨークのMoMA P.S.1で行なわれた個展にともない出版されたもの。ここ数年の著者の生活(カリフォルニア州ソノマ在住)の周辺、家族のドキュメントが、激しく美しく捉えられている。

アリ・マルコポロス:アムステルダム生まれ。写真家、映像作家。ニューヨーク・タイムス、インタビューなどの新聞、雑誌、ワールドクラスのスノーボーダーやビースティボーイズなどポップスターのドキュメント写真などで知られる。一方でインディペンデントな出版や展覧会にも旺盛な好奇心で、精力的に参加している。
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2)Transitions and Exits
  アリ・マルコポロス (著) ハードカバー (2000/10/31 Juno Books)
ワールドクラスのスノーボーダー・キッズたちのツアーとその周辺をドキュメントとした素晴らしい写真集。試合に望む前の緊張の時間帯やオフのときの解放を同じ空気を吸った写真家がまっすぐに捉えている。宿舎のホテルでのはじけた表情、あどけなさを残した孤独な横顔。少年たちとともに旅をし、たくさんの時を過ごした写真家が、人が生きることの真実を映像でくっきりとみせている。巻末の著者インタビューには写真家としてのスタンスが真摯に語られていて、それも感動的。
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<梅田望夫の本>

1)「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」
  梅田望夫著(2006年、ちくま新書、777円)
インターネットが日本で普通に使われるようになって約10年。あたりまえの日常のツールになってしまった感があるけれど、最近になって何か面白そうなことが起こりそうな予感がして、あらためてまわりをきょろきょろと見回していた。というところに、ドンピシャリこの本と出会った。やはり、そうなのか、大変なことが起きつつあるんだ、今気づいてよかった、それがこの本を読んで感じたことだった。

いつも使っている検索エンジンGoogleのむこうに広がる荒野、時々お世話になっているけれどあまり深くは考えていなかったフリー百科事典のウィキペディア、そしてamazonやオープンソースのこと。一番衝撃を受けたのは、これからの世界を二分する「こちら側の世界」と「あちら側の世界」という視点だった。ビル・ゲイツ?ホリエモン?みんな「こちら側」の人々です。では「あちら側」には何が、だれがいるのか。

人間の善意を基本として生きるか、そうではない生き方に身を寄せるか、そんなことも考えさせられる1册だった。インターネットの潮流、あるいはこれからのビジネスの話ではあるけれど、自分の人生の選択肢、打開法をさがしている人にも何かヒントがあるかも。
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<V.S.ナイポールの本>

1) 「ある放浪者の半生」V.S.ナイポール著・斉藤兆史訳
(2002年、岩波書店刊、2500円)
カリブ海トリニダード生まれのインド移民三世の作家、ナイポールの最新長篇小説です。インドというもの、そこに流れるメンタリティを外からの目で、ある意味公平に冷淡に描いた作品と言えるかもしれません。物語はインド国内にとどまらず、主人公の人生の放浪にともなってイギリスへ、アフリカへ、と流れ出ていきます。その放浪性は、物語のなりゆきの中だけにあるのでなく、この作家独特の語りの手法にもあらわれています。率直な語りは読みやすく、魅力的であり、これが2001年ノーベル文学賞作家の作品なのかという、驚きと興味をわかせるに充分な一冊です。
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<山尾三省の本>

1) 「祈り」(2002年8月、野草社刊、2000円)
三省さんの遺していったことばが、一冊の本になりました。屋久島の人々に「屋久島の森のような人」と語られた三省さんの第一回「三省忌」に出版された詩集。
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2) 「聖なる地球のつどいかな」ゲイリー・スナイダー、山尾三省著
(1998年、山と渓谷社刊、1900円)
アメリカの詩人ゲイリー・スナイダーとのこの対話集は、三省さんの思想を知るのによい本だと思います。これはゲイリーの住むシエラネバダの森で、1997年の春に30年ぶりに再会した二人が、21世紀の地球の暮らし方について語り合った対話の全記録です。通訳、監修:山里勝己(琉球大学教授)。
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3) 「びろう葉帽子の下で」(1987年の新装版、野草社刊、2500円)
葉っぱの坑夫に掲載されている三つの詩「火を焚きなさい」、「ミットクンと雲」、「月夜」の原典の詩集です。
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<アントニオ・タブッキの本>

1) 「島とクジラと女をめぐる断片」アントニオ・タブッキ著・須賀敦子訳
(1998年、青土社刊、1900円)
アソーレス諸島についての、そしてクジラと捕鯨をめぐるいくつかの断章でつむがれた、不思議な味わいの物語です。まえがきでタブッキは『これは旅行記とは言えない』と断っていますが、わたしにはこれこそが真正の旅の本と思えるものでした。
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<ナナオサカキの本>

1)「犬も歩けば」ナナオサカキ著
  (新装版2004年、野草社、1800円)
ナナオサカキ、1923年生まれ、辺境の山や沙漠を歩き、川をくだり、ときにそこに住みついたりしながら世界をさすらい続ける詩人。真っ白なロングヘアを赤いヒモで後ろで束ね、足元にはスニーカー、ピタリときまっている。若い人々との朗読会では、ジョークを飛ばし、インディアンの歌やアイヌの歌をうたい、指笛を教え、逆立ちをすすめ、野生について語り、リュックにつめた自分の詩集やノートを取り出して、求めに応じていくらでも読む。アメリカ・インディアンの友人からは「コヨーテ」の名で呼ばれているとか。81歳のいまも、各地を放浪中で、海外から呼ばれることもしばしばとか。

出版の詩集の多くは「犬も歩けば」もふくめて、横書き。それが自然に思える作風で、英詩の韻にあたるようなフレーズのくりかえしが気持ちいいもの(星みちが/風みちが/霜みちが/水みちが/......)や、「キラ キラ/キラ キラ」「チュィリ チュィリ チ チ」など詩の音が楽しくひびくもの、ガラガラ蛇、コヨーテ、ユッカ、キャニオン、リオ・グランデといった沙漠のランドスケープがひろがるもの、かと思えば西表島や信州や知床にもかるがると飛んでいってチュウサギや吊船草を見つけたり。「へのへのもへの/読者諸君」なんて人をくったように終わる詩もあったりして。

日本語で書いてはいるけれど、精神やからだは必ずしも日本語の内側に留まっては(属しては)いないですよ、いつでもどこでも境界を飛び越えてどんどん行きたい方へ行きますよ、詩人ですからね、コヨーテですからね、といっているような、間口がポカーンと開放された詩がたくさん詰まっている詩集です。志高く、意思つよく、心はざっくり広くて気取りなし、そして陽気。詩人としての気質をもって生まれ、もち続けて生きてきた人なんでしょう。
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ナナオサカキの著書
「ココペリ」 (1999年)  人間家族編集室
「地球B」(1989年) 人間家族編集室
ナナオサカキの訳書
「亀の島(対訳)」(1991年)  ゲーリー・スナダー著 ナナオサカキ日本語訳 山口書店
Inch by Inch: 45 Haiku by Issa Issa Kobayashi著 Nanao Sakaki英語訳 Univ of New Mexico Press



<木坂涼の本>

1)「刺繍日記」 木坂涼・詩、ミヤギユカリ・画
  (2005年、理論社刊、1200円)
この詩集を片手に、散歩に出たくなるような本です。
気持ちを広げてくれる(ミヤギユカリさんの赤い線だけで描かれた)ドローイング、こころを遠くに飛ばしてくれる(日常のことを書いているのに、いつのまにか広い世界に出てしまったような木坂涼さんの)言葉。ひとつの詩の世界、ひとつの絵の世界。別々なところが、それぞれすくっと自立しているところが気持ちいい。そういう二つの世界がひとつのことを成してしるところに感動。
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