葉っぱの坑夫おすすめの本<1>


祈り


□ 「びろう葉帽子の下で」「アニミズムという希望」など三省さんの本を出版している野草社の石垣さんから、「祈り」というタイトルの詩集が送られてきました。白い表紙の美しい本で、帯には「永遠の青い海 わたしは それである」とありました。これは扉の次のページにかかげられた詩の一節で、このようにつづきます。「わたしは そこからきた意識の形であるから そこへ還る」と。また「永田浜 正月」という詩では、四十六億年のふたつとない青海を砂浜から眺め、その真昼に感謝し、平和を願いつつ、「<願う>ということと 東シナ海という地理が ここに広がるということは 決して 別のことではない」とつづけます。

三省さんが家族とともにこの屋久島に移住してきたのは、1977年のこと。当時その辺りは、亜熱帯の強い太陽と雨の力で野生の山へと返りつつあった廃村で、見棄てられ半ば朽ちかけた家々、放置された段々畑、猿の群れに鹿たちと、無人の里だったそうです。三省さんのひとつの夢は、ここを再び人間の住む村里につくっていくことであったと「びろう葉帽子の下で」のあとがきにありました。それから20年あまりの歳月がたちましたが、三省さんの思いは自分の住む屋久島にとどまらず、あらゆる人々の原郷へ、川、森、山、動植物、地球全体のことへと広がっていったようです。

詩集「祈り」は未発表の詩と病を得てからの詩がまざっているそうですが、全体の印象はどこかユーモアがただよい、ほっこり気持ちよく微笑しているような作品が多いのです。「びろう葉帽子……」とくらべても、むしろ軽やかで、さらりと乾いた風がそこここで起きては渡っていくような、そんな感想をもちました。最後に、「祈り」から印象にのこった詩のフレーズをいくつかあげてみます。

それ干そう 洗濯物
たくさんのおむつ
たくさんの 小さなシャツや ズボン
こんな楽しいことは どこにでもあるわけでない
(梅雨時)

わたくしたちの いのちの
本当の底は 咲(わらっ)ているのではないでしょうか
(わらって わらって)

ただ 今を 吹いているだけ
どこからか 吹いてきて
どこかへ 吹いていく
(風)

仕方なく
妻に爪をきってもらうのだが
それが ぷっちん ぱっちん まことにうれしい音がして
不意に涙がこぼれてしまった
(爪きり)


(葉っぱの坑夫 Updates News No.37より)

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