モロッコは前々から行ってみたい国だったので、日本にいる時から、下調べを重ね、
「車を3日間貸切り、町から砂漠へ行き、アトラス山脈を越えて、別の町へ行く」という、わたしたちにしては贅沢なプランを予約していた。
出発の朝、それまで滞在していたモロッコの古都、フェズにドライバーが迎えに来てくれた。
“I'm crazy!”が口癖の彼に連れられ、砂漠に向かう途中あちこちに立ち寄る。
大きな猿がたくさん暮らしている木立や、羊飼いの集まる川辺。砂地に棒と毛布で作った簡易テントで、果物を売る小さなマーケットにも。そこで買ってもらって、サボテンの実を初めて食べた。

ドライブの途中、どこまでも黄土色のなだらかな丘が広がっているように思っていたところに、
突然、吸い込まれるようなコバルトブルーの湖が現れたことは、特に印象的だった。
この地形のダイナミックさは、やっぱりアフリカだなあと感じたけれど、タンザニアで見た景色とは
また違った雰囲気で、なんとなくおとぎ話の中の景色のように思えた。
例えば、箒にまたがった魔法使いが空を飛んでいるのが似合ってしまいそうな。
途中、街並も現れるけれど、町の入口には大抵大きな門があり、その奥に並ぶ建物は、
屋根と壁の境目もなく、すべて肌色の土でできており、ドアだけは綺麗な色で魔術的な模様が描かれている。
そこに人の生活感を感じるというよりは、見慣れない、不思議な印象を受ける。
だんだん、モロッコという国をドライブしているというより、星の上をドライブしているという感覚になってきた。

朝からドライブを続け、夕方に砂漠近くで一度車を降りると、間近からドライヤーで吹きつけられているような
熱風を浴びた。
そのあたりになると、建物もなくなり、植物も殆ど生えてはおらず、ただ茶色い土の上をひたすら走ることになる。
水平線に、淡いオレンジの夕日が落ち始めた時、遠くに肌色のなだらかな丘のようなものが見え始めたと思ったら、
それが砂漠だった。 
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13. 砂と星のあいだで〜サハラ砂漠(モロッコ)