アシッドな心配

四釜裕子

だんだんと あたたまってくる地球に住んでいるので
地球人の英知の結晶 温ナビなんてものができたなら
カーナビはともかく ちょっと携帯してみたい

地球の南のあたりでは 大きな大きなオゾンのホール
地球の北のあたりでも オゾンはもはや70パーとか

地球の北側 ぐるぐる回る球体がおこす穏やかな風は
炭坑の上のあたりで 硫黄や窒素の酸化物をのせ
丸い地球のその東側 日本の西に雪を降らせてきた 

人の顔は だんだんだんだん顎が細くなっていき
雪の結晶もまた
TやらI型のスレンダーなものが最近増えてきたらしい
君達の世界の流行なら良いけれど
私達の世界ではそれを奇形の結晶と呼ぶものだから

ダイオキシンと枯れ葉の悪夢

これから益々増えた場合に
なだらかな白銀の月山のシルエットが
コッホ曲線を描いてしまうのではないのかと
空からまっすぐ降ってきた雪が
ブラウン運動をとるようになり
見上げた子供が目を回してしまうのではないのかと
なによりも
なんだか大気中の埃がよく付着するようになり
太陽の光を反射することがなくなってしまうのではないのかと
心配で心配で

心配でたまらない


初出 「gui」51 vol.19 (August 1997)


四釜裕子(しかまひろこ)
1965年山形県生まれ。編集者。詩誌「gui」同人。
本の身体についての個人サイト「bookbar4」を運営。
そのなかで、新聞折本プロジェクト、奥成達資料室などもおこなう。

「アシッドな心配」は四釜裕子詩集「心配の速度」(John Solt highmoonnoon発行)に収録されています。

Copyright by Hiroko Shikama

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