メキシコの北部にある街、サンクリストバルデラスカサスにやってきたのは、
その周囲にある、少数民族の暮らす村々を見てみたいと思っていたからだ。
広場にいると、村々から山を越えて、虹を思わせる色彩の衣装を身にまとい、
黒くて長い髪を編んだ女性達が現れ、
布に包んだ民芸品を地面に広げて売り始める。

通りには、民芸品を扱う土産物屋もたくさん並んでいて、
一軒一軒覗いていくのはわくわくしたけれど、
その中でわたしは気になるものを見つけた。
カラフルな絵本の挿絵のような絵が、ポストカードやノートになって売られているのだけれど、
描かれている人達が、みんな覆面のようなものをつけているのだ。
色使いや、ファンタジックな構図に惹かれただけに、この人たちはなんなのだろうと思った。
他の旅行者やお店の人に聞いたところ、それはサパティスタ(民族解放軍)と呼ばれる、ゲリラ組織の人々で、
メキシコ政府から、先住民族の権利を守るために結成されたということが分かった。
それでも、温かみのある絵と、ゲリラという言葉が結びつかなくて、わたしの中ではぴんとこないままだった。
数日後の朝、宿で出会った日本人たちが、ゲリラの暮らす村に行くという話をしていた。
もっとも、オベンティックという名前のその村に入るには、村民(ゲリラ)の面接があり、
最近行った人達は面接が通らず、中に入ることはできなかったということだった。

一緒に行かない?と誘われたけれど、
何も知識のない私が、好奇心だけで行ってもいい場所なのか、
ほんの少しためらいを感じた。
けれど、旅している間に、まずは行ってみて、
後から調べてもいいのかもしれない、順番はどちらでも構わないはずと
思うようになっていたし、あの絵のことを思いだして
一緒に行ってみることにした。
 (つづきを読む)

24. 霧の中の村と自由〜オベンティック(メキシコ)