パリに着いた時、それまでいたスペインの晩夏から、急に初冬の空気に変わり、
空も曇っていたせいか、気持ちがワントーン沈んだ気がした。
そして、自分がバックパッカーであることが、少し嫌になってしまった。
もっと、身綺麗に、身軽に、もう少しお金も持って来たかった。
覚悟はしていたけれど、想像以上に物価が高かったので。
アジア、アフリカと金銭感覚が抑えられた上、モロッコでヨーロッパの列車のフリーチケットを盗まれ、
これから続く旅の生活費に危機感を抱いていたところだったので、お金を使うことにとても臆病になっていた。
特に飲食店の値段に腰がひけてしまい、カフェですらウインドウ越しに眺めるだけで、
スーパーで買ったバゲット、にんじん、トマト、フルーツ、チョコ、サラミを常備し、
ワイン(は安いので)と一緒に、少しづつ齧って栄養をとる毎日を繰り返していた。

そんな状況の中、パリを楽しむには、あちこちを散歩し続けるほかなかった。
蚤の市を眺め、モンマルトルの丘に登って街を見渡し、
橋を渡って、ステンドグラスの美しい教会を見に行き。
チャイナタウンで妙になごみ、点心の安さにはしゃいで、道端で頬張り。
美しい墓地をさまよい歩き、シャンゼリゼ通りの有名なお菓子屋で、場違いさを感じながら、
綺麗な色のマカロンを一つだけ買って食べ歩き。

こうやって書き出してみると、結構楽しんでいるように思うけれど、
当時は、なんだか毎日あてどなかった。
それでも、舞台がパリだと、貧乏は貧乏なりに、それなりの雰囲気が出るというか、味わい深さがあるような気がした。
これがもし、東京や、ヨーロッパでも違う都市だったら、更に侘しい気持ちになったように思う。
この違いはなんなんだろうと考えたけれどしばらく分からなかった。 
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19. 色のあいまに〜パリ(フランス)