空港から出ると、真夏。もわっとした空気に包まれ、古いレゲエの流れる車に乗りこみ、宿を目指す。
これまでしばらく冬の季節の国々にいたので、体がびっくりしている。
車窓を過ぎて行く風景は想像していたよりもほのぼのとしていた。
動物の絵がペインティングされた、家の壁の前で子ども達が遊んでいたり、
手持ち無沙汰な感じの、ドレッドに髭の男性がたたずんでいたり。
辿り着いた宿は、高級住宅街の中、鉄のフェンスで覆われ、何重にも大きな南京錠がかかっていて、
そのものものしさは、能天気な南国のムードにそぐわない緊張感を与えていた。
実際、ジャマイカの治安は非常に悪くて、昼夜問わず犯罪に巻き込まれる可能性は高い。

こんなにものんびりとして暖かな空気の中、宿から出たらリラックスすることはできないというのが、もどかしく、所在なかった。
とはいえ、食べるものもないし、お金もおろさなくてはならないし、宿の中でじっとしている訳にもいかない。
教えてもらったローカルなショッピングモールまで、とりあえずタクシーで出かけた。
始終緊張していたけれど、銀行のお姉さんはかわいい上に優しいし、フードコートには気になるメニューがいろいろある。
ジャマイカにはお弁当屋さんがたくさんあるのも印象的だった。
あれこれ迷って、山羊のカレーを注文した。
思ったようなくせもなく、おいしく食べながら、少し前に誰かから聞いた話を思い出す。
ジャマイカの森をバスで走っていると、時々横切る山羊を轢いてしまうことがある。
そうすると、たちまち、近所の人々が集まってきて、あっという間にその場で山羊をさばき、
肉も内臓も、跡形もなく持ち帰ってしまうという話。
 
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16. その国を好きになる予感〜キングストン(ジャマイカ)