アジア、アフリカと、目まぐるしい日々を過ごしてきて、やっとヨーロッパ。
リスボンの街を歩く人達の小ぎれいな格好を見て、自分の姿に愕然とした。
破れた箇所を何度も繕い、手洗いを重ねて色あせた、ぼろぼろのワンピースに、日本の百均で買い、3ヶ月間毎日履き続けたビーチサンダル。
趣ある石畳の街角で、それはひどく浮いているのを感じ、とりあえず靴屋でサンダルを購入した。

休日には、泥棒市と呼ばれる蚤の市まで歩いたり、スーパーで知り合った日本人の女の子と、教会を見に行った帰り道、人気店に並んでエッグタルトを食べたり。
夜もワインやお菓子を買いこんで、飲みながらずっとおしゃべり。
久し振りに、日本にいた頃の感覚がよみがえってきた。
街を歩いても、人に群らがれることもないし、お店では値札の金額通りに買い物ができる。
カメラや財布を取り出す時にドキドキしなくても大丈夫。
レストランのテーブルに蠅の大群がやってくることもないし、トイレにペーパーを流せるのが何より嬉しい。
(アジア、アフリカとずっと私たちは、どこに行くにも自分用のトイレットペーパーを持ち歩き、トイレに流すことはできないため、宿でもごみ袋に捨てなくてはならなかった。)

ポルトガル滞在最終日、夜にバスでスペインに向かう予定だったため、日中は最後の市内観光を楽しむ時間があった。
宿の近所で目をつけていた、ポルトガル家庭料理屋に向かう。
ポルトガル語は勿論、手書きの英語メニューもまるで解読できないけれど、当てずっぽうで頼んだランチは、気取らない味で、じんわり沁みた。
心地よく重たくなったおなかをこなそうと、のどかな昼下がりの坂道をくだる。
タイルの模様が美しい建物の壁。風にはためく洗濯物。窓から下を見下ろす猫たち。
階段にこしかけて煙草をくゆらすおじいちゃん。犬を連れたエプロン姿の奥さん。
路地の奥でいわしを焼いているおじさんと香ばしい煙の匂い。
ひとつひとつの光景に流れる時間があまりに穏やかで、馴染みやすい。
日本のあちこちでもこれと同じような情景を見たことがあるように思った。
通りには、小さなレコード屋や書店も立ち並び、若い人も年取った人もふらりと立ち寄って、お気に入りを見つけて買っていく。
マニアックな品揃えの店にも、辛気臭さはなく、風通しが良い。 
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15. 好きなところへ行けばいい〜リスボン(ポルトガル)