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クオナの糸ごよみ 2
結びこぶ
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雲が空で群がる。白い、
とても白い。
白いふきだまりが
大地を、山や川の流れの上を
渡っていく。
わたしは保留地の長屋に着く。
病気が若いもの、老いたものを苦しめ、
やせたオオカミにしている。
黄色いより糸
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かあさんがチャウミウンのところに行くように言う。
奥さんが斑点熱で死んだそう。
チャウミウンはわたしに会って喜ぶ。話をする。
小さなルメムサが遊ぶ、
クワリスシムと。
結びこぶ
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チャウミウンがわたしに残していった
ハチドリの心臓。
赤くて、ちいさくて、水晶のよう。
そのとなりに、小さなシカ皮の小袋
紅スズメの花ひとつ、
ヤクヨウニンジンの茎いっぽん、それに
白いブルードルートの花ふたつが、入ってる。
ふりたての雨みたいに、甘いにおいがする。
婚礼の踊り太鼓が
一晩中鳴らされる。
チャウミウンとわたしは
夜があけて、ひと休みする。
つよく抱きしめあう。
朝の光がわりこむすきもないくらいに。
結びこぶ
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その日は乾燥していた。ノドがかわく。
土ぼこりの中、チャウミウンが
クワリスシムに足跡の追い方を教えている。
わたしはチャウミウンの母、ミオワの
ティーピーを訪ねる。呪術師が
骨のストローで
ミオワから病気を吸い取ろうとしている。
黄色いより糸
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村ではベリーの収穫を祝って、
男たちが女たちの前で踊る。
こどもたちがわたしの手をにぎる。
リボン
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わたしは編んだ籠を
ハックルベリーの実で満たし、
いぶした丸太の上において乾かす。
草原で、チャウミウンが
乾いた地面にやさしくわたしを押したおす。
わたしたちは風と葉っぱみたいになって揺りあう。
紐
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子どものとき、川で
かあさんが魚をグッと突き刺すのを
岸から見ていたことを覚えている。
すばしっこい仕事ぶりだった。
かあさんのヤリの端で
身をくねらせた鮭。
鮭がやって来ている。チャウミウンと
子どもたちは川へ出かけた。
わたしは2番目の子が生まれそうなので家に残る。
かあさんとわたしは女の子を秘かに願っている。
その夜、ゆらめく月あかりの下、
二人目の息子が生まれた。
結びこぶ
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オオカミの群れが遠くで鳴いている。
わたしが湖の氷をわって、かき集めている間にも
雪がどんどん積もってくる。
その日、山ヤギの角で
スプーンをつくって過ごした。
いろり火の上で食事のしたくをする。
子どもたちに歌をうたいながら。
ガラスのビーズ
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雪どけ水が土手からあふれるとき、
ミオワの魂を、白いハヤブサを見る。
それは空たかく舞い上がり、
小さな風のひと呼吸ひと呼吸にのって
おだやかに回りながら上昇していった。
白いより糸
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月が熟した果物のようにまあるい。
ルメムサが生まれてから
12の月暦の日々が過ぎた。
あの娘が大人になる日が近い。
結びこぶ
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わたしの心がうたう、
わたしの娘が変わっていくのを、うたう。
あなたは、朝まだ早い靄(もや)の中の
滝の流れなのよ、とあの娘におしえる。
結びこぶ
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クワリスシムは一晩中
魂に会うために崖のそばで待つ。
そして、わたしは夢の中で、
山を越え、太陽のむこうへ
タカといっしょに舞い上がっていく
あの人を見る。
紐
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チャウミウンがわたしに残していった
ハチドリの心臓。
赤くて、ちいさくて、水晶のよう。
そのとなりに、小さなシカ皮の小袋
紅スズメの花ひとつ、
ヤクヨウニンジンの茎いっぽん、それに
白いブルードルートの花ふたつが、入ってる。
ふりたての雨みたいに、甘いにおいがする。
白いツノガイの貝殻
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ルメムサの出血がはじまる。
あの娘に大人になる日が来た。
あの娘が木の皮の丸小屋から帰って
わたしが話すわたしの糸ごよみの話を聞いている。
話しおえると、あの娘はわたしに、あたしも
ハチドリの心臓がほしいと、
朝のラブソングがほしいと、言った。
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