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はじめに

これから始める物語は、ほとんど本当にあったことばかり。信じてもいいのだろうかと心まよわせなくてもだいじょうぶ。お話はすべて、シエラネバダ山脈の東側そしてヨセミテ南部をふくむ細長い帯状の地域で起こったことです。登場する土地の名前は、インディアン名の他は、すべて地図で見つけることができます。インディアンの地名には、たいてい何か特別な意味があって、たとえば「パーランプ」はパイユートの言葉でトウモロコシが育つのに充分な水がある場所を意味しています。他の地名も、名前で描写されているような場所であると言えると思います。

 風俗や習慣は、パイユートの小さな一族たちのさまざまな話を参考にして書きました。パイユート(Paiutes)は、本当はPah Utesと書かれるのが正しく、「水辺に住むUtes(ユート)」という意味です。水の流れる川がほとんどないグレートベイズンに住むユートの人々と区別するためです。パイユートの人たちは結婚や古い風習がこわれていく中で互いに混ざりあってきたので、いまでは、どの話がどの一族の話なのかを見定めるのは難しくなっています。ギリシア神話やローマ神話がそうであるように、物語は時をへて変えられ、混同して伝えられてもいるようです。
 「マハラ」も「カンプーディ」も、もとはインディアンの言葉ではありません。しかし、大平洋沿岸の白人たちと同じようにインディアンたちも、この言葉を「インディアンの女」(マハラ)、「村または集落」(カンプーディ)として使っています。「マハラ」という言葉がどのようにして使われるようになったのかは、ほとんど知られていません。白人と最初に知りあったどこかの部族が使いはじめ、そのときスペイン語で女を意味するムヘル(mujer)の発音を誤って覚えたと思われます。「カンプーディ」の方はスペイン語のカンポ(campo)から来ていて、ときに「カンポーディ」と発音されたり書かれたりしています。西部地方の人にはよく知られているインディアンの円すい形の小屋「ウイキアップ」は、アシや薮(やぶ)でできたあばら屋で、毛布やブリキ缶を足して作られているのがよく見られます。
 「コヨーテ霊」の話が、本当にあったことだと思うのは、籠女(かごおんな)が直接わたしにその話をしてくれたからですが、わたしはこの話を心から信じました。籠女はセイリーン盆地とフィッシュ湖で、コヨーテ霊の姿を見たと言っていました。また、「火をもたらす男」の話も籠女から聞きました。カーン・リバーのジムはわたしに、タボットのことや、どうして高い山に木が生えなくなったのかを話してくれました。もしこれがウソならば、山の高いところに一本の木も生えていないという事実をどうやって説明したらいいのでしょう。ビッグパインに女の服を着て住んでいたマハラ・ジョーについて言えば、あの男がこうなった理由をうそだと思うかもしれませんが、あれは本当の話なんです。もうこの辺りには残っていませんが、戦地に行くことから逃れるために女の服を着たインディアンは他にもいましたから。
 まがったモミの木の話も、ほんとうにあったことです。キアサージュの道をわたしと一緒に歩けば、その木を見せてあげることができるし、白皮の松が立っていた場所も教えてあげられます。わたしは山越えの旅を率いるメンバーの一人でしたからね。残りの物語も、同じようにほんとうのお話と思ってください。

(2003年11月29日改稿)

メアリー・オースティン
(1904年初版。原題 'The Basket Woman -
A Book of Indian Tales')

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