アムステルダムと東京 ふたつの都市に1本の線を引く そこに開かれる平原

川西真理

J.S.バッハは、コラールの伴奏で「耳慣れない音を数多く混入させ」たとして聖職会議に召喚され、モーツァルトはハーモニーの理想形態であった弦楽四重奏(ハ長調「不協和音」K456)の冒頭を、調性すら判別としな いカオスな響きで開始した。音楽家は、 掟破り、いや、創造を規定する掟などないのことを、軽やかに証明してしてみせる。

20世紀の終わりに、向井山朋子が、それぞれアムステルダムと東京を拠点に、独自の活動を展開する6人の音楽家たちに作品を委嘱し、西洋芸術音楽家の新作からかつて非音楽とされたノイズ・ミュージックまでもを並べてい く。

そこは周辺も中心も、境界線すらない平原だ。

かつて、東京が江戸と呼ばれた時代。人々は、蘭学によって新しい知に到達しようとした。そしてこの「おらんだ」は、鑑賞のため異種交配のバイオテクノロジーからつくりだした金魚の品種名でもあった。

ピンナップガールのように演奏空間に吊された無数の金魚たちのインスタレーション。デジタルPBXは、点滴の薬液袋を思わせる袋に金魚たちを閉じこめることで、今日のクローン羊を産出した知の際限のない歩みと、揚子 江に生息していた川魚を愛玩するために改造したアジアの美の欲望とが、実はとても近いことに気づかせてくれる。

遠い過去と未踏の未来が混在する場所。

あらゆるものが同時にあるその中に立て!
耳と目を閉ざさずに!


  2000年8月


テキスト:Amsterdam × Tokyo「ざわめきの宿る地平の上で」プログラムより(2000年8月30日・31日・9月1日アムステルダム、9月14日ハーグ、9月17日ロッテルダム、10月5日ユトレヒト、10月14日 フローニンゲン、12月2日・3日東京:スパイラルホール/ピアノ:向井山朋子、空間演出と数百匹の金魚が泳ぐビニールポケットのインスタレーション:デジタルPBX)
*上の写真は東京公演のときのものです。撮影:清水知成

川西真理
プロフィール原稿、依頼中。

Copyright 2000 by Mari Kawanishi
Photograph Copyright 2000 by Tomoshige Shimizu


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