なみだ

よしみ

満員電車に乗ったら
なみだがでてきた

あのとき街角でティッシュをもらっておけばよかった
そうしたらわたしはこのきれいなシャツのそでで
なみだをふかなくてよかったのに

わたしのなみだは
したをむいているわたしのあしもとで
ひとつ ふたつ とおちて ちいさなさんかくけいになった
すこしあたまをあげたら
こんどはまえにたっているサラリーマンのせびろのせなかにおちて
ほしのかたちになって すうっとすいこまれた
このせびろをきて 10センチ前にたっている あかの他人は
わたしのなみだが せなかにちいさな かなしいしみをつけたこともしらないし
いま真後ろにたっている この見ず知らずのおんなが泣いていることもしらない

そしてこのなみだをいちばんみてほしいひとには
このなみだがカラカラにかわいてしまうまで
みせてあげれないだなんて

髪をきってしまわなければよかった
かみをきらなかったら
だれもわたしのなみだをみることができなかっただろうに

わたしのなみだは
ひだりがわのコンタクトレンズを
いっしょにながしてしまい
わたしはすこし めがふじゆうになった
よくみえないのはすこしよかった

あと二駅がとてもとおくて
ちょっとまえにひんけつをおこして
はきそうになってしまったときよりも
それはとおいようにかんじた

わたしのなみだが 電車の床に
ちいさなさんかくけいとそうじゃないかたちを
いくつもつくったとき
でんしゃはわたしのおりる駅についた
階段をかぜがわたしに向かっておりてきて
いっしょになみだをかわかしてくれた

いつもとちがうさみしいみちをとおってかえった
そしてこんどは
かおをくしゃくしゃにしてないた
こうじげんばのあかりが
わたしのなみだをみんなにみせようとしても
わたしはもうどうでもよかった

このなみだをほんとうにみてほしいひとまで
川になってながれていってくれればいいのに

yoshimi
フリーランスのグラフィック・デザイナー。葉っぱの坑夫のウェブデザイン担当。空腹な時に自分の精神が研ぎ澄まされるのを感じることに快感を覚えている。現在個人のサイトを製作中。
Copyright by Yoshimi

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