活動日誌

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ここでレポートしている本が、発売になりました。
こちらからどうぞ。



オンデマンド印刷参考図書

●新刊「籠女」の制作レポート(PDF入稿によるワークフローの確立)は、こちらです。(2003年10月〜2004年2月)


オンデマンドブック制作レポート(1)

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8.4(Sat.)
「定形郵便で送れる本という夢」


 葉っぱの坑夫スタート時に予告していて、ずっと発行が遅れていたチャップブック(オンデマンド印刷製本機をつかった軽装アートブック)の制作が始まっています。第1册目はエイゴ・ハイク集「ニューヨーク、アパアト暮らし」(ポール・メナ著)。現在ブックデザインの最初のドラフト(草案)ができていて、これを今後つめていき、葉っぱの坑夫のチャップブックの基本にする予定です。
 
 最初のドラフトはB6判(128×182mm)・60余頁の体裁でつくりました。印刷をお願いしようと思っているのは、中西印刷さん(京都、インターネット)。オンデマンド印刷機ドキュテック(ゼロックス)をまだ需要の少なかった1998年に取り入れた会社ですが、創業は明治3年、活版以前の木版印刷の時代からの印刷屋さんです。葉っぱの坑夫はウェブの公開を準備中だった1999年秋ごろから、中西印刷の専務にしてオンデマンド印刷の専門家中西秀彦さんに、オンデマンド印刷の実際を教えていただいてきました。

 そして今年の春に出会ったブックデザイナーの宮川さんの協力を得て、2001年夏、チャップブックは少しずつ発行に近づいています。宮川さんはブックデザインの仕事を長くしてきた方ですが、この春にはドローイングの作品展を開くなど、多様な創作活動をしている人でもあります。表参道の宮川さんの事務所を最初に訪ねたとき聞いた、出身地宮古島のことばの話はとても印象的でした。ことばや翻訳を表現の入口にしている葉っぱの坑夫にとって、島のことばと暮らしの話は未知のことで、なんとも刺激的でした。別の機会にご紹介できたらと思っています。

 さて「ニューヨーク、アパアト暮らし」ですが、ラフデザイン、印刷の見積りなどが出てきたところで、いま一番の検討事項になっているのが、本の重さです。B6判のドラフトがでてきたときに、幅を少し狭くしたら定形郵便に入るのではないかと思いつきました。葉っぱの坑夫のチャップブックのように低価格で売りたい本にとって、郵送料や代金の振込み手数料は全体のバランスの中でなるべく小さく抑えたい項目です。たとえば定価350円の本に対して200円以上の本以外の出費というのは、大きすぎると感じていました。

 そこでなんとか本を定形郵便で送れる体裁にできないものか、考えました。定形郵便の範囲とは、(9×14)cm以上、(12×23.5)cm以下で厚さが1cm以下、重さが50g以下のものです。これだと最大でも国内なら90円で郵便が送れます。本の送料としては宅急便などと比べるまでもなく、とても安価です。ここで問題になるのが重さです。サイズの方はB6変形(たとえば110×182mm)、厚さも7mm以下くらいに抑えれば、定形封筒になんとか入ります。しかし重さの方は印刷に使う用紙のキロ数と関係してくるので簡単にはいきません。またオンデマンド印刷機にかけられる紙は強度や搬送性が問題になるそうです。一般に軽い紙とは薄い紙で、オンデマンド印刷機は、薄い紙は苦手なのです。紙を送るときに送りが左右不均等になったりしてシワができて破れたり、紙詰まりしたりする可能性が高いそうです。

 これらのことは、竹尾という紙の会社の方から、オンデマンド印刷機にかけられる軽いキロ数の紙について調べてもらったときに、聞きました。とても素早く、快く調べてくれました。そしてわかったのは、計算上こちらが希望する紙の重さでオンデマンド印刷機にかけられる紙の取り扱いがない、ということでした。

 というあたりまでが、ここ2、3日の状況です。まだ完全に50g以内をあきらめたわけではありませんが、もし該当する紙がみつからなかったとしても、本をできるだけ軽くするために、B6判変形は生かそうかなと考えている最中です。いずれにしても、50g以内に収まらないときは定形外となり、75g、100gと料金は上がっていくのですから。また、いつか軽くてオンデマンド機にかけられる紙があらわれるかもしれません。印刷機の方に改良が加えられることもあるでしょう。変形にするには紙を裁断するという行程が入るので、そのコストなども見なければなりませんが、なるべく軽い本をつくりながら紙の開発、機械の改良を待つのも一つではないかと感じています。

 とここまで書いて終わろうとしたら、中西印刷さんから朗報 eメールが入りました。B6変形なら、オンデマンド機にかかる4/6判、55kgの紙で、計算上だと別紙の表紙も入れてギリギリ目指す重さ(封筒の5gを差し引いた45g)をクリアできそう、というのです。机上の計算だけでは危険なので束見本をつくって実験してみましょう、というありがたいお返事。それでぜひにとお願いしました。あとは実験結果を待ってのことになります。

 この続きはまた。次回は発送用の封筒の話なども書きたいと思っています。

*上の写真は、右上からA Small Garlic Press発行のチャップブック「ニューヨーク…」のアメリカ原典版(A5判)他、左の白い本「印刷はどこへ行くのか」(中西秀彦著/オンデマンド印刷版サンプル、B6判)、その上に乗っている本「Now we are six」(イギリスのペーパーバック、B6判変形)、下の段のものが現在進行中の「ニューヨーク、アパアト暮らし」のドラフト(B6判)です。

*「Now we are six」は定形郵便内サイズで厚さが7mm、100頁で重さが67g。あっ、というくらい軽い本です。クマのプーさんの詩の本でモノクロのドローイングが多数入っていますが、裏映りの問題はありません。多分オフセット印刷だと思います。この紙を使うことができれば計算上は50g以内の本ができそうなのです(単純計算だと6割の頁数として40gくらいか)。

*軽装アートブック:このような軽くて安いペーパーバックの本を「アートブック」と呼んでいいものか、と思われる方もいるかもしれません。それは「アート」とは何か、という問題とも関係することです。葉っぱの坑夫は、アートとは「それによって世界の見え方が変わるようなことで、まだ実現されてないことを生み出すこと」というように考えています。「アートがやらなくて、だれが世の中を変えるんでしょう」と言った友人がいます。あらゆるアートにとって、いま、自身がどのように存在するかは最重要課題です。そういう意味で、葉っぱの坑夫のチャップブックはアートなあり方を追求する本でありたいと思っています。

*チャップブック:アメリカ、イギリスなどでアーティストやインディペンデントな出版社が発行する詩集などの簡易製本の本をこう呼んでいます。もとは18〜19世紀イギリスで流布した大衆向けストーリーブックの呼び名です。詳しくはまた機会をみて書きます。
(k.d.)





オンデマンドブック制作レポート(2)

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8.7(Tues.)

「ページ数の自由度がもたらすものは…」

 週明け早々の月曜日の朝、中西印刷さんからeメールが届きました。束見本を作ってみたら、43gだったとのこと(B6判変形、60ページ、表紙別紙)。こちらの希望の45gからさらに2gの余裕があります。すばらしい。50g郵便本の可能性がぐっと高まってきました。もうひとがんばりです。90円切手を貼って、定形封筒で送ってくださったとのこと。「さて無事届くでしょうか。」というメールの結びに、わくわくしています。

 さっそくデザインの宮川さんにも電話で報告。「よかったですねぇ」と宮川さん。束見本が届いたら、宮川さんにも見てもらいます。

 ちょっと話が本の重さから離れますが、ここのところの中西さん、宮川さんとのやりとりでわかったことが一つあります。それはオンデマンド印刷機で製本する場合、本のページ数の自由度が高いということです。内容量に合わせてより細かくページ数を設定することができるのです。通常の本は16ページの倍数で計算するそうです。32ページ、48ページ、64ページというように。それは全版の大きな紙に各ページの紙面取りをして印刷し、B6なりA5なりの大きさに折り、それを断裁するからです。これが最も無駄のない紙面取りらしいのです。

 ところがオンデマンド印刷製本機では、カット紙を直接積み重ねるので、16ページ単位の制限はないとのことです(2ページ単位でページを増減できます)。ブックデザインを長くしてきた宮川さんも知らなかったオンデマンド印刷機の特徴、利点です。これで葉っぱの坑夫のチャップブックも60ページで制作ができます。

 このページ数の自由度の高さは、本造りのプランにもいい影響をおよぼしそうです。たとえば初版でつくった本に、その後のプラス要素や経過報告など内容に応じて必要な分だけ足して第2版をつくることができます、とても気楽に。まるでウェブの更新をするように、本がつくれるというわけです。すでにオンデマンド印刷で発行した何種類かの詩集から、テーマで選んだ作品をアンソロジーとして編み直して別の版(本)を出すことも手軽にできそうです。データさえちゃんと保存しておけば、それを流用して新たな本に組み入れるのはそんなに大変ではないでしょう、と宮川さんも言っていました。さらに作家どうしがオンデマンドでつくった本のデーターを交換しあえば、音楽CDのリミックス版のような面白い試みもできるかもしれません。

 この続きはまた。束見本が届いたところで。





束見本

オンデマンドブック制作レポート(3)

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8.10(Fri.)
「表紙と本文用紙のいいバランスをさがす」


 水曜日のお昼ごろ、中西印刷さんから束見本が届きました。束見本というのは、印刷していない紙でつくった体裁どおりの判型、ページ数のサンプルです。定形の茶封筒に入れられ90円切手を貼って届けられたその束見本は、「これが本?」というくらい薄くて軽いものでした。白い表紙には『42gです』とエンピツで書いてありました。すごい。卵1個分より軽い本です。これなら封筒の5g分を入れても定形内の50gまで余裕があります。
 
 その日本一軽そうな束見本には、ちゃんと背表紙があります。ページ数が60ページ+表紙なので、中綴じだと止まらないので平綴じになっているのです。この方がもちろん本らしい体裁です。わたしは束見本をしばらく手にもって眺めたり、ページを繰ったりしていました。中西さんのメールには、表紙の紙は重さの関係でぎりぎりのところで選んでいます、とありました。薄い表紙です。そして本全体もとても薄い仕上りです。これが定形郵便50g、90円で運べる重さの限界の形なのです。
 
 束見本は、わたしのところのクラフト封筒(5g)に入れられ、90円切手を貼られ、デザインの宮川さんのところに送られました。そして翌日宮川さんが受け取ったところで、これをどう考えるかについて二人で話し合いました。
 
 宮川さんの意見は、表紙の紙と本文の紙の厚さのバランスがちょっと悪いのでは、というものでした。それは表紙を限界まで薄くしてある割に、中の紙はオンデマンド印刷機にかかる紙ということで割にしっかりとした張りのある紙が使われているためで、二者の差が少ないのです。あと、手に取ったときに少し頼りない、という感想もありました。この原因も、ページ数の少なさからくるものというよりは、表紙の薄さからくるものと思われます。というのは、参考図書としてほぼ同じ判型の洋書のペーパーバックで56ページと48ページの本2册を、別便で宮川さんのところに送ってありました。両方とも45gくらいの本です。中の紙は中質紙といわれる週刊マンガ誌に使われているようなざっくりとした風合の繊維の粗い紙です。この紙がかなり軽いのでしょう。しっかりした表紙がついているのに、この重さなのですから。
 
 この中質紙系の紙は海外ではペーパーパックなどによく使われている紙ですが、日本ではどうしてか書籍にはまったくといっていいくらい使われていないそうです。わら半紙のようで安っぽい、という受けとめられ方をしているようです。日本ではもっとツルツルして張りのある目のつまった紙が好まれるので、わたしや宮川さんが希望するような密度の薄い紙、荒い風合の紙は、手に入りにくかったり、かえって上質紙より高くなってしまったり(流通の問題で)するようです。これは日本人の「本」というものに対する気持ち、高級感のようなものを求めてしまうこととか、全集ものを部屋に飾っておく習慣とか、そういう生活習慣やモノに対する気持ちのあり様と関係しているのかもしれません。そんなに何でも高級感やち密さばかりを求めなくてもいいのにとも思うし、いろいろなヴァリエーションが選べてこそ豊かと言えるだろうに、などと不満も言いたくなります。でもいったい、だれに向って?
 
 宮川さんとは電話で、中西印刷さんとはメールのやりとりで頻繁に相談しながら、最終的にたどりついた結論は、50g郵便で送れる本をつくるのはあきらめよう、というものでした。本文用紙をこれ以上軽くできない中、バランスを良くしていくために表紙の紙をコシと張りのある厚めの紙に変えていくことは、本全体の重さを増やすことになります。表紙の紙の選択と本の重さとのせめぎあいになります。これを進めていくと、判型やページ数までも変えないと実現しない本ということになりそうです。と、ここまできたときに、ハッと、これ以上郵便料金にこだわって本づくりをしていくと、「どんな本をつくりたいのか」という一番大切なことから離れていってしまいそうだと感じました。
 
 軽くて、手軽で、手にもって感じのいい、そして見た目も魅力のある本をつくりたい、ということは最初から変わっていません。その延長線上に定形郵便内というプランもありました。でも、いまは郵便料金のことはいったん置きます。1册の本として魅力あるものを、まずは作らなくては。
 
 それにしても、中西印刷さんにもずいぶん協力してもらって、ここまで軽さを追求してみることができたのは、本当にためになりました。多分ここで起きていることは、1冊の小さなインディペンデントな本の中に収まる問題ではないのでしょう。日本のモノ造りの現場の問題であり、日本人のモノとの付き合い方の問題であり、IT時代に郵便や宅配という物質を運ぶシステムがどう機能したらいいのかの課題であったりするのだと思います。
 
 軽くて、小さくて片手に気持ちよく収まり、手軽にどこへでも持ち運べ、シンプルで簡素な造りで、値段も安く、eメールでは送れなくても、負担の少ない送料で受け渡しのできる本。それはわたしにとって理想の本の形です。これから本格化する電子メディアの時代に、紙製ではどんな本が好まれ、必要とされるようになるのでしょうか。(k.d.)





オンデマンドブック制作レポート(4)

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8.18(Sat.) 
「デザインと内容の関係性について」

 きのうの午後、宮川さんの事務所をたずねて、いよいよブラッシュアップされた本の中身のデザイン(表紙をのぞいた)を見てきました。B6判変形で、最初のドラフトと比べると縦長でハンディなサイズになっています。幅だけ少しカットして110mm、長さは定形B6のまま182mmあります。中西印刷さんにつくってもらった束見本どおりの大きさです。
 
 宮川さんがプリントアウトしてくれた本文ページのレイアウトを見ます。まず扉ページがあります。タイトル、著者、翻訳者、発行元などの文字が英語と日本語の両方で入っています。この「ニューヨーク、アパアト暮らし」は目次から作品、奥付にいたるまで、日英のバイリンガル表記になっているので、扉もそのようになっているのです。英語は横組に、日本語は縦組にそれぞれの項目が積み木を重ねるようにして、小さめの文字で組まれています。エンパイアステートビルを思わせる、本の縦長にそった美しい文字組です。
 
 それから目次、まえがきとつづき、ひと呼吸見開きページをおいてから本文のハイク作品に入っていきます。ひと呼吸のページはアートワークです。ハイク作品のあいまには、著者ポールのニューヨーク・ガイドがはさまっています。これはアメリカの原典版にはない部分で、日本語の読者のために訳者が著者のポールにメールで取材したものです。IRT、サウス・フェリー駅、FDR通りなどハイクに登場する地名がならびます。
 
 作品の後ろには著者のBio(略歴)、訳者あとがき、奥付、次の出版物の紹介ときて、最後は葉っぱの坑夫の紹介文で終わっています。小さな本ながら、作品とその周辺、そして発行元についてわかるようになっています。
 
 この本のデザインをお願いするとき、わたしは宮川さんを前に「英語のハイクを日本語のハイクにおきかえていくときの"とまどい"や、二つの言語を行き来する"ゆれ"や"ブレ"のようなものを表わせませんか?」などという難問にしてとても抽象的なことを言っていました。宮川さんはわたしの意味するところをすぐに理解してくれましたが、それがどんな形になってアウトプットされるかは、頼んだ本人のわたしにも想像しがたいものがありました。だって、そんなことが紙の上で可能なの?と。頼んでおきながら言うのもなんですが。
 
 きのう上がってきた本文のデザインを見て、わたしはまずは文字組の美しさ、アートワークおよびそのバリエーションのカッコ良さに目をうばわれていましたが、少し落ち着いてくると、そこにはわたしのお願いしたコンセプト「二つの言語を行き来するときのゆれやブレ」が、あっという手法で実現されているのでした。これは言葉で書いてもしかたがないので、できあがった本の実物をぜひ見ていただきたいと思いますが、ひとつだけ言うと、日本語と英語のはざまに自分は立っていると思いこんでいたわたしが、実は日本語サイドから半端なものの見方をしていたな、と気づかされるようなことでした。宮川さんはそれを「違和感」というとても適切なことばで表現していました。
 
 といったわけで、デザインのキーワードのひとつは「違和感」です。これはこの本のポジション、あり様、コンセプト、意図、なぜ出版するのか、などに波及していくことばです。そしてもうひとつのデザインのキーワードは「ノイズ」です。これはこのニューヨークのハイク集がもっているテイストからくるもので、39句のハイク・テキストへのデザインからの応答です。アートワークに表現されています。デザイナー自身のものです。
 
 「ニューヨーク、アパアト暮らし」は手軽な形態、カジュアルな持ち味の小さな出版物ですが、ここまで内容と意図とデザインがピュアに一途にむすびつき形となるところまで来れるなんて、わたしの想像をこえたことでした。本にとって幸せなことであり、またそうめったにないことです。葉っぱの坑夫らしい出版のありようが追求できたと満足しています。
  
 次回はたぶん定価について書きます。


 

オンデマンドブック制作レポート(5)

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8.24(Fri.) 「自由価格販売で流通をひらいていきたい」

 「ニューヨーク、アパアト暮らし」の制作はいま、ブラッシュアップの最終段階にはいっています。来週には中西印刷さんにMOで入稿し、本番の試作品をつくってくださるというので、それで紙の選択の最終決定をしたら、いよいよ本刷り、製本にはいります。本題に入る前にちょっと訂正を。レポート(2)で、
 
 オンデマンド印刷製本機では、カット紙を直接積み重ねるので、16ペー ジ単位の制限はないとのことです(4ページ単位になると思います)。

と書きましたが、これはまちがい。なんと2ページ単位でページ数を変えられるそうです。中西さんによれば「オンデマンドには折りという概念がない」そうで、奇数ページ以外だったら、どんなページ数でもOKということです。あらためてこの自由度にびっくり。

 さて、本題です。入稿を目の前にして、いくらで本を売るか定価をきめなくてはいけなくなりました。奥付のISBNのところに価格を入れるかどうかは別にして(ISBNを管理している日本図書コード管理センターの人は、販売するなら価格表示をしてください、と言っていましたが)、いずれにしてももうタイムリミットがきています。本にかぎらずでしょうが、モノに値段をつけるというのは、いろいろ考えさせられることが多いです。葉っぱの坑夫は非営利パブリッシャーですが、事業体として自立してやっていけるようにするには、営利企業と基本的には同じような経営の仕組をつくらなければなりません。存続できる仕組を考えるところは同じで、そこで得た利益をどう使うのかとか、事業体の存続目的の最優先事項はなにか、などに違いがあるということです。
 
 葉っぱの坑夫のチャップブックは、シカゴのA Small Garlic Pressのチャップブックに啓発されてプランされたものなので、本の体裁から定価、売り方にいたるまで、ずっとそれを一番のお手本としてきました。ASGPのチャップブックはドキュテックによるオンデマンド印刷製本システムでつくられるA5判の50ページ前後の本です。ASGPのサイトではどの本も一律$2で、書店などでは$3で販売しています。この$2という価格には、最初、とてもおどろきましたし、また購入者として感動もしました。そしてこの1册$2でまかなえる本とはどうやって作るのだろう、というのが最初の興味でした。これを逆算して投資金額を推測しても、最初は信じられませんでした。$2×300部=$600。ASGPの代表マレク・ルゴウスキー氏に聞くと、これが本の制作費のほぼ総実費で、これを部数で割った金額(つまり単価)が定価だとのことでした。直販の読者に対しては、利益をのせない価格で売っているということです。
 
 ASGPはイリノイ州で認可された非営利組織の詩の出版社です。葉っぱの坑夫は非営利の仕組をモデルとしてはいますが、どこからも認可されているわけでなく、したがって非営利としての優遇措置をうけているわけでもなく、ただ非営利であると宣言し、その仕組(利益をメンバーが分配しないというルール)を実行しているだけの存在です。葉っぱの坑夫が非営利組織としての申請をなぜしていないかの理由は、ひとつはアメリカと日本の非営利組織の認可に対する基準のちがいが前提としてあり、もうひとつは葉っぱの坑夫自体が活動体としてまだ未熟な部分があることの2点があげられます。これは今後の葉っぱの坑夫の大きな課題になっています。
 
 さて、話を定価にもどしましょう。葉っぱの坑夫はASGPをずっとモデルにしてきたので、定価においても$2というのは理想でした。日本円にすると200円ちょっと。こんな価格で、小さな、でもここにしかない輝きを秘めた1册の本を世に問えたらなんてすばらしいだろう、と思っていました。だから葉っぱの坑夫のウェブサイトの「本で読む/CHAPBOOK LIST」のページにはずっと、『価格は350円程度を予定しています』と載せていました。350円というのは、200余円とくらべると少し高いですが、これは回転資金を少しだけ定価にふくめた結果です。印刷原価でいうと、アメリカと日本の格差はほとんどありません。当初、ASGPから印刷代を聞いたとき、日本ではこの1.5倍から2倍はするかもしれないと危ぶんでいました。場合によってはアメリカで印刷しようかとさえ思っていました。でもオンデマンド印刷に関する著書などで名前を知っていた中西印刷の中西秀彦さんに問い合わせると、同じドキュテックの印刷で価格もほぼ同額でした。これが1999年の秋のことです。このときの中西印刷さんのていねいで誠実なオンデマンド印刷についての説明がずいぶんと役に立ちました。すべてメールでのやりとりです。このとき以来印刷は中西さんで、と決めていました。川崎と京都と距離ははなれていますが、そして本の納品に1000円(宅配便)がかかりますが、それを上回る信頼感とシンパシーのようなものを感じたからです。
 
 350円くらいでいこうとずっとおもい続けてきた定価ですが、細かい試算をもういちど一からやって、定価の根拠を再考してみることにしました。このきっかけとなったのは、ブックデザインの宮川さんとの打ち合わせでした。デザインの2稿目がでていたときで、だいぶ本の容姿も見えてきたころのことです。商業出版の現場で長く仕事をし、同時にインディペンデントな活動にも参加したり支援したりしてきた宮川さんの意見はこうでした。一番たいせつなことは、この出版が1册きりで終わってしまうのでなく、5册、10册とつづいていくことだと。そうでないと、世の中に対して何かを示したことにならないのではないか。出版しつづけていくことで、はじめてやりたいことの意味を伝えることができるのだから(少なくとも葉っぱの坑夫の出版は)、それがなるべく上手くいく仕組を資金面でも考えた方がいいのではないか、と。そして出版が循環していく利益構造を考えるときに、印刷などのハード以外の経費、デザイン代などはとりあえず外しておいたらどうだろうと言うのでした。というのは、その段階の試算ではわずかですがブックデザイン代を経費の中にふくめていました。分配のことを考えるのはもっと後でいいのでは、というのが宮川さんの考えでした。
 
 これは葉っぱの坑夫にとって、目からウロコの考え方でしたし、宮川さんに対しては感謝の気持ちでいっぱいでした。回転資金について考えないわけではなかったけれど、定価を安くしたいという思いに強くひっぱられていたため、ずいぶんと甘い試算になっていたと反省しました。これはこの本にかかわるすべての人、著者や原典の版元であるASGP、デザインの宮川さんや葉っぱの坑夫のメンバーに対しても、ここをきちんと決断しないと無責任なことになるなとおもい直しました。

 またここで葉っぱの坑夫がやろうとしていることは、葉っぱの坑夫だけがたまたま実行できることではなくて、オンデマンド印刷製本のシステムをつかってインディペンデントな出版をしてみたい人だれでもが、実現可能なプランであることが大事だとおもいました。それには利益の計算法もある程度普遍性のあるもので、資金をたくさん持っていなくても運営していけるようなものでなくてはなりません。

 こうやってできたのが、葉っぱの坑夫Chapbook editionの価格体系とその仕組です。以下に簡単に説明します。

本の概要:
葉っぱの坑夫Chapbook edition
「ニューヨーク、アパアト暮らし」(B6判変形・62ページ・モノクロ・初版300 部 ) Web Press 葉っぱの坑夫発行 ISBN 4-901274-00-7 C0098 著者/ポール・デイヴィッド・メナ まえがき/ドゥーグル・J・リンズィー 訳者/だいこくかずえ ブックデザイン/宮川デザイン事務所 印刷/中西印刷株式会社

印刷部数   300 部

印刷費   70,000円      単価 233円(印刷原価)
消費税    3,500円
配送費     1,000円
営業費   10,000円
---------------------
計     84,500円         282円(総経費原価)


試算
販売可能部数 250部(著者献本や営業用サンプル50部)
単価338円

ウェブ定価             520円
送料                140円
(1册分75g以下)
葉っぱの坑夫の利益額         182円(粗利35%)

原価回収最低部数          163册
                 163冊目から利益発生


(1)1冊を完売するごとに、次の本が1.5册作れる計算になっています。
(2)直販のウェブ定価と書店等への卸値を、同一価格(520円)にしてあり、書店にかぎらず、個人やその他の業種の人も、葉っぱの坑夫から仕入れた本を自分の地域や自分の運営するウェブサイトで販売することができます。販売価格は自由価格(オープン価格)です。

一般書店等での価格を試算すると、たとえば:
販売者卸値            520円
販売者マージン(25%)       173円
販売者定価             693円(税込価格:728円)

販売者卸値             520円
販売者マージン(40%)          347円
販売者定価              867円(税込価格:910円)
*販売者とは一般書店をはじめとする、個人もふくめたチャップブックの販売者のこと。
 

 ウェブ定価の根拠は、次の出版の可能性に対する目算を基本に、現状の一般社会での利益率も参照してきめました。販売部数250册のなかの163册目から利益発生というのは、きびしい試算でしょうか。これだけはやってみなければわかりません。ただ初期投資をのぞいて考えれば、250册を完売した時点で130,000円の収益があり、次の出版が1.5册できる計算になります。たぶん、1册目の完売を待って次の出版を考えるというわけにはいかないと思うので、2冊、3冊、と出版するなかで、少しずつ利益が蓄積されていくことを願いながらやっていくことになるでしょう。
 
 葉っぱの坑夫のサイトでの直販以外の販売については、書店やインテリア雑貨店などの小売業者をふくめ、個人のウェブサイトでの販売、個人のネットワークでの販売などに対して同一の卸値520円で販売し、販売者自身が売価を決めて売る自由販売価格を採用しようとおもっています。これにより葉っぱの坑夫が営業できる首都圏だけでなく、葉っぱの坑夫の本を売ってみたい人なら誰でも、他の地域の方や面識のない方でも、個人でも商店でも気軽に本を売ることができ、それにより販売ネットワークを広げることができます。
 
 とこのようなことをここ1週間くらい、葉っぱの坑夫のアカウンティング・メンバーやブックデザイナーとともに考えていました。この仕組、そして価格にたいして、どのように思われますか?感想や提案などありましたら、editor@happano.org 大黒までお願いします。

オンデマンドブック制作レポート(6)

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9.10(Mon.) 「テストプリントとフォントの出力」

 8月27日(月)、宮川さんから入稿原稿データをMOで受け取り、中西印刷さんに翌日、郵便で発送しました。木曜日の午前中に中西さんからデータが届いたことと、プリントアウトがあった方がよかったというメールがきました。「同じ機械、同じソフトでやれば同じ結果になりそうですが、そうはならないのが、この世界ですので」とのこと。さっそく手元にあったプリントアウトを中西印刷さんに速達で送りました。まずは試作品をつくってくださるそう。こちらは初めてのオンデマンド入稿なので、ありがたいことです。

 月曜日に宮川さんの事務所へ行ったとき、表紙のことが話題になりました。宮川さんは表紙を2種類つくっていたので、二つをならべてどちらがいいかなどを話していました。そのとき、ふと、オンデマンド印刷を使うのだから、どちらかに決めなくても、2種類の表紙があっても楽しいのではないか、と思いつきました。2種類の表紙というのは、ひとつはタイトルのバックにアートワークを敷いたもの、もうひとつは白地にタイトルの文字組を置いたものです。この二つを並べ、たとえば書店にこのように2種類の表紙が並ぶことを想像してみると、ちょっといたずらっぽくて楽しいと思いました。中身は同じだけれど、表紙がなぜか違う。すると宮川さんは、「なんなら、300册の本に、300種類の表紙が付いてたっていいんだよね」と言います。うーん、それはスゴイことだけれど。。

 宮川さんは奇をてらってこういうことを言っているのではありません。オンデマンド印刷による出版とはなにか、オンデマンドで生み出されうる本の形とはどんなものなのか、というようなことを考えたとき、どんな答えがあるのだろうという好奇心から出たことなのです。オンデマンドで出版しようとしている人々が考え、試行錯誤しているであろうけれど、まだ結論の見えていない、誰も見たことのない本の形のことなのだと思います。わたしたちが知っているグーテンベルク以来の「本」の形と生産のシステム、それはとてもよくできたものではあるけれど、いま、オンデマンド印刷という新しい手法を手にしかかっているときに、必ずしもそれをお手本にしなくてもいいのでは、という発想です。新しい技術、新しい生産システムを使いこなすのに、グーテンベルク以来の頭のままではもったいない。オンデマンドという装置から生み出される本は、いままでの本が当然としてきた形とはちがった顔つきをしていてもいいように思うのです。

 そもそも、本にかぎらず、モノは近代化の流れの中で、そのシステムからはじき出された常識の概要、商品企画、つまりロスのない形、サイズ、数量などなどにそって定形化されてきたはず。本の表紙だって、2万部、3万部と刷ることを前提に、ロスなく大量に生産するため今のような形になっているのです。これがもし、3部、5部の手づくりの本であれば、一つ一つ変化をつけていく(あるいは変化がついてしまう)ことも考えられるでしょう。手紙のように。オンデマンド印刷による少部数出版というのは、技術の進歩によって、「ひとつひとつ」というモノと人の結びつきを、取り戻すことを示唆しているような気がします。

 と言うわけで、中西印刷さんへの入稿データには2種類の表紙を入れて送ってみました。

 そして9月5日(水)、テストプリントを4册送りました、という中西さんからのメールを受け取りました。4册も! 2種類のデザインで、表紙の紙を替えて、とのこと。頭がさがります。ただ、その前のメールで、DTPに使われているフォントとオンデマンド機のフォントとの違いから、出力に不具合が出て難航している、と知らされていました。中西印刷のオンデマンドで出力できるのは、「欧文基本38書体、和文基本5書体で、しかもOCF」とのこと。OCFとはフォントの規格のことで、最近はほとんどCID規格に変わってきているらしいのですが、プロ用のシステムは、いったんかえると会社中のシステムを変えなければならないので、中西さんのところではまだOCFのままだそうです。だたこれも、現場の方のお話だと、フォントの名前が重要であって、フォントの規格は関係ないとのこと。なかなか複雑です。PDFで保存してフォントを埋め込む方法が一番いいかもしれない、という提案もいただきました。ただこれも、オンデマンド印刷機の方がAcrobat 5.0(PDFファイルを作って保存するアドビのアプリケーション)の動作確認ができていないそうです。
 
 と、フォントのことで難航してはいますが、とりあえず出力した本の試作品を待っていました。そして7日(金)、4冊の試作品が速達で届きました
 
 マット系の表紙で2種類のデザイン、コート系の表紙で2種類のデザイン。本とは思えない軽さと、手にすっぽりと収まる感触、白と黒のクールな顔つきの表紙、これらの要素が「本」であって「本」でないような、不思議な存在感をかもし出しています。これは少なくとも「書籍」ではないかもしれません。

 本の存在の仕方や手ざわりにはいい感触をもったのですが、フォントを見れば、ゴシック系の太い文字がかぼそい明朝体に変わっていたりして、デザイン面での調整が必要です。和文にも、欧文にもフォント上のバグがいろいろと出ています。宮川さんは、テストプリントを参照しつつ、中西印刷さんから教えてもらった確実に出力できる欧文基本38書体、和文基本5書体に合わせて、書体の指定の変更をしていくと言っています。今回はこの方法で解決しましょう、ということになりました。

 書体の指定変更をしたところで、原稿データを中西さんに送り直し、大丈夫かどうか見てもらいます。理論上はこれでフォントの問題は解決するはずですが、実際のところはどうなるのか、わたしの知識では明確には予測できません。ただ中西印刷さんが根気よく実験を続けてくださるようなので、あまり心配はしていませんが。
 
  「ニューヨーク、アパアト暮らし」、9月初旬出版の予定でしたが、少し遅れそうです。1冊目で良い方法論がわかってくれば、2冊目、3册目と生かしていけますから、ここはもうしばらく実験と調整をつづけます。

editor@happano.org 大黒

オンデマンドブック制作レポート(7)

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10.19 (Fri.) いよいよ納品、本が届いた!

 最初のテストプリントが出てからなんと、1ヶ月以上の日にちがたってしまいました。この間、さらに2度のテストプリントが出ており、一回目は日本語のフォントの調整をDTP側でしたものを出力、その際、英文の方がまったく違うフォントで出力されてきたため、今度は英語のフォントを印刷所の方で指定のものに近いものに変換してもらう、という作業を行なっていました。これらのことは、本来そんなに複雑なことではないのですが、出稿側と印刷所側のコミュニケーションが、初めての仕事ということもあってかうまく流れず、意図がよく伝わらないまま作業が行き来した結果のことでした。

 根本的な問題として、DTP側の指定フォントと、オンデマンド印刷機側の使用可能なフォントの違いということはあるのですが、それはある程度はわかった上での作業でしたから、今回の混乱、印刷の遅れは互いのコミュニケーション不足にあったと反省しています。今まではやりとりはメールでしたが、最後には、京都(中西印刷)→川崎(葉っぱの坑夫)、川崎→京都、の電話とファックスが頻繁に行き来しました。 

 フォントについてもう少し詳しく説明すると、日本語フォントは中西さんのオンデマンド機で使えるものは、基本5書体(モリサワ系/りゅうみんLKL、中ゴシックBBB、太ゴ101、B太ミンA101、Lじゅん101)、欧文も基本35書体です。これらの書体をやりくりしてデザイン意図に近いものをつくるわけです。ちょうどマッキントッシュが初期の頃、日本語フォントがあまりない状態でデザインしていたような感じ、に近いようです。ですが、これはこれで、こういうものと思って最初からモノづくりをすればいいわけで、文字の線の太さなど多少ニュアンスが変わったとしても、これも今の段階のオンデマンド機をつかうというリアルな側面を表わしているわけですから、意味はあります。納得もいきます。今後、この印刷機をつかっていく中で、いろいろ注文をだしたり、こんなことができたら、という希望を制作側からどんどん出していくことで、印刷のハード、ソフトともに進化していってもらえばいいと思います。

 それから、オンデマンド印刷機をつかってみて、ライターとして感じたことが一つありました。それは自分のパソコンでタイプしたデータには責任を持たなくてはいけないということ。どういうことかと言うと、パソコンで文章を打っているとき何気なくつかう文字と文字の間隔、文字と()の間のスペース、英文の文字と「,」のスペース、改行マークなどが、すべてダイレクトに書き手のニュアンスのまま出力されるのが、オンデマンド機だからです。デザインとは別に、文字の並びのニュアンスをどうするか、ということに関して、ライターが文章を書く段階、あるいはデータを渡す段階で、それが自分の意図かどうかきちんとチェックする必要があるのです。通常の印刷の場合だと、紙に出力されたものを見て赤字を入れて直すというプロセスがありますが、オンデマンドでは基本的には自分の文字データはそのまま出力される仕組だからです。今回も、最後の最後で、三つ四つ、英文字の字間にミスがあるのを発見し、中西印刷さんの方で、データを書き替えてもらいました。この最終出力用データが、今後増刷するときの基本データとなります。

 そして今朝、この最終出力用データからプリントされた300册の本が、宅急便で納品されました。表紙A(プレーン)、表紙B(アートワーク)、各150册ずつです。箱を開けると75册ずつの梱包が四つ、その上にサンプル本が何冊か、きれいに収まっていました。

 中を開けてみます。表紙の紙は刷り見本のときより少し厚めのマット紙です。真っ白な、色をつかわない表紙。本としてはめずらしいかもしれません。端正でクールな表情の薄くて小さなこの本が、街の書店やアートショップなどでカラフルで豪華な本たちと肩をならべるところを想像すると、笑いがこぼれます。

 実は、この後の検品作業の中で、アッということがありました。中扉の見開きのアートワークのページで、グレーの網ベタを敷いた部分に、こすれて白くなったような色の欠けが発見されたのです。それはなぜか表紙Bの方からのみ多量にでてきました。150册を検品した結果、まったく問題のないものはたった52册で、残りの大半はかなり目立つ色欠けがありました。また、同じページでグレーのベタの上のラインが、右ページと左ページでずれている(版ずれ)のあるものが、表紙Aのサンプルから何冊も出てきました。これは困ったと、中西印刷さんに連絡をとり、Faxで詳しい説明を送ります。その結果わかったことは、版ずれの方は、2、3mmの誤差はどうしも起こりうることで、この範囲のずれは機械の限界であるということ。これは後でデザインの宮川さんからも、オンデマンド機でなくとも、許容範囲のうちと言われました。1部のすきもない0と1のデジタルの世界のものが、紙という「物質」に変換されていくときに、どうしても起こることだそうです。そして色の欠けの方は、中西印刷さんの方でも原因がわからないそうですが、きれいなものがあまりに少ないということで、新たに刷ったものを追加で送ってくださることになりました。

 最初の出版で見当がつかないこともあって、気づいたことをどんどん言ってお願いしたらこういう結果になりました。オンデマンド印刷機の限界や許容範囲を多少こえた厳しい要求になってしまったかもしれません。本づくりの態度としては、オンデマンド機で少部数出版する場合、もう少しラフな取り組みでいいのかもしれません(宮川さんにそのように言われました)。そこらへんも、今回やってみて、加減が少しわかったという感じです。そんななか、中西印刷さんはこちらの要望によく応えてくださったと思います。

 ここまでで、オンデマンド印刷にまつわる本づくりのレポートはお終いです。ぜひチャップブックの注文ページの方へいって(買わなくても ;)、どんな本が出版されるのか見ていただきたいです。本の画像もいっぱい載せてあります。このページは、出版予定日の10月22日に公開したいと思っています。

 このレポートについては、付録として、本を売るための周辺のこと、ISBNの取得や決済の方法、販促用のDMやステッカー、封筒、ディスプレーケース、販売店との交渉などについて、引き続き書いていこうと考えています。

●新刊「籠女」の制作レポート(PDF入稿によるワークフローの確立)は、こちらです。(2003年10月〜2004年2月)

editor@happano.org 大黒


recent activities


reference books


The report on making a chapbook(1)

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8.4(Sat.)
First of all I would like to apologize that this report may include grammatical mistakes or ambiguous expressions because I am not an English native speaker. When I write something for Happano website I always asked Jeff, our member, to check my English. But this time I would like to publish the report as soon as I write it. So I decided to put my writing without check. I would be very glad if you would tell me if you find something incorrect with my English. I will improve with your help. (k.d.)
* * *

We are now working on the production of our chapbook (using the on-demand printing system) which we announced when we opened our website, though it has been delayed considerably. The first edition will be English language haiku "tenement landscapes" written by Paul David Mena in a bilingual version. We have finished making the first draft of the book's design, and will improve on it after this. When we choose a book format and design we will make a prototype.

The first draft of the book design is in B6 format(width128, height182mm), about 60 pages, and monochrome printing. It will be printed by Nakanishi Printing CO., LTD in Kyoto, Japan(and Internet). Nakanishi Printing is a company which began to use an on-demand printing machine(XEROX DOCUTECH) in 1998, and is a long standing company founded in 1871. I also hear that they are good at multilingual printing, too. Since we started the Happano website we got a lot of information about on-demand printing from Hidehiko Nakanishi who was the managing director and also an on-demand printing specialist.

One more important thing for us is that we met a book designer, Mr. Miyagawa, in the spring. He has worked at publishing companies and has had his own design office for a long time. He is also an artist who had a personal exhibition of his drawings in this spring. When we first met in his office, I was very moved by his talking about his native region, Miyakojima Island which is far in the south of Japan, in Okinawa. He talked about very interesting things concerning language and translation (between Miyakojima language and the standard Japanese). I will write about it at a later date.

Now we are trying to reduce the book's weight in order to send it by a regular mail (under 50g). We may cut the width of book, a variation of B6 format. We would like to publish our chapbboks at a low price, and we want to use a light and handy format. Also, we don't want to make readers pay a high cost for postage. We think a low priced book and a high postage cost are out of balance. So weight is very important.

Nakanishi Printing is now experimenting with sending the book by a regular mail, under 45g (subtract 5g for the envelope). They are making a sample book. If we succeed in this experiment we will be able to publish a very light and handy book which is a rare format in Japan.

I will continue writing the report soon. See you next time.

*The picture above: a right green one is a chpbook "tenement landscapes"(A5 format, the original version of our "New York apaato gurashi" in bilingual format) published by A Small Garlic Press, the left white one a sample("printing system in the future") published by Nakanishi Printing, on-demand printing (B6 format), the other green book on the white one is "Now we are six" (English version, paperback, a variation of B6 format), and the bottom white one is the first draft format of our chapbbok "New York apaato gurashi"(B6 format).


The report on making a chapbook(2)

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8.7(Tues.)
We received an e-mail from Mr. Hidehiko Nakanishi who was the managing director of Nakanishi Printing yesterday morning. He said that the sample book was 43g(a variation of B6 format, 60 pages and 4 cover pages separately). We have 2g room to our expectation, because the limit is under 45g. How splendid it is! We are getting possibility to make a 50g mailable book now. Mr. Nakanishi said they posted the sample book on a regular form mail. I am so excited waiting for it.

When I called up our book designer, Miyagawa-san, we talked on that we noticed about freedom of a quantity of pages when we print by an on-demand printing machine. Usually we have to edit a book 16 pages by 16 pages in one book. But when we use on-demand printing system we are free from the limit of 16 pages. This is really great. You can add only 4 pages updates on the first edition of your book, and publish the second edition. And you may think to make an anthology to edit your published books. We think it is one of merits to print books by an on-demand printing machine. We can plan a making of book more freely.

I will tell you about the sample book with a photo when I receive it.