●「シカ星」が本になりました●
     
ここは『シカ星』紹介の旧ページです。(新ページはこちら

「シカ星」ができるまで---> 制作日誌
本を外観は?---> 写真撮影画像


 
look insde (本の中の画像集)

シカ星 -アメリカ・インディアンはうたう- 
The Deer-Star -Amerindian Songs- 

英語テキスト:メアリー・オースティン
絵:ミヤギユカリ、日本語訳:だいこくかずえ、デザイン:宮川隆

夏の夜あけ、東の空低いところにあらわれる「シリウス」の名で知られる明るい星の物語。ミヤギユカリさんのドローイングとパイユートの詩がひとつに溶けあって、沙漠の丘陵を、セージの原野を、サボテン台地を、風のように走り抜けます。一枚絵による蛇腹折り、横へ横へと繰りだされる長大なランドスケープ。詩と絵と造本がぴったり重なって生まれた、今までにない動的でダイナミックな詩画集です。
*表代作を含め、全13の詩を内面に収録。日本語/英語

価格 ¥1,429(本体価格)
B6判(横位置)、64頁(内カラー32頁)、オフセット印刷
使用紙:オペラホワイトバルキー
クリアケース入り
ISBN: 4-901274-06-6 C0798

Happano Store 「シカ星」ほか、既刊の本を紹介しています。
◆ ウェブ版の「シカ星」はこちらです。

◆ 発売記念「シカ星」展が開かれます
会期:2005年10月3日(月)〜10月15日(土)
場所:PROGETTO(川崎 ラ・チッタ・デッラ内)店内にて
葉っぱの坑夫が初めて作ったビジュアル絵本、ドローイング&詩集「シカ星」の発売を記念して、川崎のアートブックショップPROGETTOにて展示をします。店内の壁面をミヤギユカリさんの描く赤い強い線、沙漠のランドスケープが走ります。本のサイズはB6(横位置)と小ぶりですが、じゃばらを広げながら読めば走読距離約6メートルという長丁場の絵本。その長さや広がり、本まるごと一册を一枚絵に展開したときの眺望が展示では体感できます。本であって本でない、でもやっぱり本としかいいようのない「紙」でできた「何か」、そこから生まれる小さなサプライズ「おー」や「あー」をお届けしたいと思います。展示会場では、「シカ星」のためにミヤギユカリさんが描きおろした原画も数点展示される予定です。

*10月12日(水)〜11月1日(火)まで、ミヤギユカリさんと葉っぱの坑夫の新しい本の展示と販売が銀座松坂屋B2F finerefine にて開催される予定です。詳細は、後日掲載します。


<シカ星・制作日誌>

| 7.03 DMチラシ1 | 7.08 DMチラシ2 | 7.15 アイディアが形になるとき |
| 7.25 これは「本」なのか(地下 - 裏に全詩を収めることを決める)|
| 9.05 入稿しました!!! 発売日は9月23日を予定しています|
| 9.16 モノの大きさ、ということ。(本は少しずつ納品されることになりました)|


2005.6.13 ウェブから本へ
ウェブでお楽しみいただいているアメリカ・インディアンの詩集「シカ星」が本になります。 ミヤギユカリさんが絵を新たに描きおろし、宮川隆さんがデザインを進めていっています。さあ、どんな本に仕上るでしょうか。
ウェブとはまた違った楽しみ方のできる、紙ならではの広がりと小さな驚きに満ちた、もうひとつの「シカ星」が誕生する予定です。
どうぞお楽しみに!

制作の経過や本の詳細をこのページで少しずつ書いていきます。画像も載せられるようになったら、紹介していこうと思います。


6.18 絵が仕上る
ベースの絵につづき、その他動植物などなどの絵も仕上ってきました。そしてデザインが今、進んでいます。
どんな本になるか、最終の仕上りイメージはまだ少しあと。


7.03 DMチラシ1
こんな感じで進んでいます。(販促用チラシから)



新刊
20005年8月発売予定

シカ星 -アメリカ・インディアンはうたう- 
The Deer-Star -Amerindian Songs- 

パイユート・インディアン口承詩からの英語訳:メアリー・オースティン
絵:ミヤギユカリ、日本語訳:だいこくかずえ、装幀:宮川隆

夏の夜あけ、東の空低いところにあらわれる「シリウス」の名で知られる明るい星の物語。
ミヤギユカリさんのドローイングとパイユートの詩がひとつに溶けあって、沙漠の丘陵を、セージの原野を、サボテン台地を、風のように走り抜けます。
一枚絵による蛇腹折り、横へ横へと繰りだされる長大なランドスケープ。詩と絵と造本がぴったり重なって生まれた、今までにない動的でダイナミックな詩画集です。
(Japanese/English  *表代作を含め、全13の詩を内面に収録)

¥1,500(税込)を予定しています。
B6判(横位置)、64頁(内カラー32頁)、オフセット印刷
ISBN: 4-901274-06-6 C0798
制作・発行:Web Press 葉っぱの坑夫
印刷、製本:博美堂

ただいま制作中。
これは本のイメージです。表紙ではありません。


ベースに使われる予定の原画の一部です。


●ミヤギユカリ
イラストレーター、画家。作品集に「Reminiscence」「ちち」「ambrosia」、「竹姫物語」(スイス・Nievesより出版)など。書籍、雑誌の挿画のほか、ナイキジャパン、JR東日本などの広告媒体、アパレルブランドとのコラボレーションも手がける。
ミヤギユカリさんの出版物や過去の展示についての詳細がこちらにあります。


(左から)「ambrosia」、「ちち」、「竹姫物語」


○メアリー・オースティン
1868年イリノイ州生まれの作家、詩人、ナチュラリスト、フェミニスト。後にカリフォルニアに移り、そこで出会った自然や土地や人々のことを題材にして、小説、エッセイ、童話、詩などを書く。アメリカでは、沙漠地帯の生命を生き生きと描いた「The Land of Little Rain」(雨の降らない土地)でその名を知られる。若いころからパイユートの人々と身近に交流をもち、そこで受けた影響が作品世界に反映されている。


メアリー・オースティンの著書(原書)



7.08 DMチラシ2
DMチラシといっしょに送ろうと思っているあいさつ文の制作をやっている。ショップ用と雑誌社用の2種類。
送り先リストも制作中。今回は部数がいつもより少し多くなる予定なので、いろいろ声をかけてみようと思っている。ひとつは全国のミュージアムショップ。それとアートブックなどスモールプレスの本も扱っているブックショップ。これのリストもまだ収集中。とくに地方のショップが把握できない。
(これを読んで、自分の住む地域にいいショップがある、など提案がありましたら、ぜひご一報を!こちらまで。editor@happano.org)

販促もそうだけれど、人がいないので(販促要員は一人)納品、返品などすべて、流通は郵便や宅急便を利用する予定。本が軽い(100グラム以内)ので助かっている。

あと、先日ある人から言われてなるほど、と思ったのは自然食品などを扱うショップNatural House。ひさびさに表参道の店に入ってみたら、ブックコーナーはあるし、いろいろグッズもあったりでびっくり。それにすごく活気があって、このジャンルが今、旬であることが感じられた。ヘルシーなお弁当が種類が驚くほどたくさんあって、一度試してみたいとも思った。外国人のお客さんも多いことから、バイリンガルの本を置くには適しているかもしれない。



7.15 アイディアが形になるとき

本をつくるアイディアというのは、最初に柱になるような大きなものがあって、それを頼りに作品づくりが進行していくのだけれど、やっていくうちに周辺のいろいろなアイディアが出てきたり、横道にそれそうになったり、障害が出てきたり、と迷うことも多い。また障害と見えたところから、アイディアが生まれポーンと面白いところに着地できることもある。

今回の本のアイディアは、ウェブ版の「シカ星」を違う見え方で紙の本にするという課題から生まれたもの。ウェブで読んだり見たりできる作品をそのまま紙に移すだけでは、わざわざメディアを変えてまで作る意味があまりない。もし紙にするなら、何かワンアイディアほしかった。それが一枚絵の長丁場(長町場)の本、というところに行きついた。いや、そこから全てが始まったのかな。

ミヤギさんの「シカ星」の絵の世界を、沙漠のランドスケープの連なりを、長丁場の絵にしていったらどうなるか。「シカ星」の詩を、若者が赤シカを狩るストーリーテリングのような詩をそこに走らせてみたらどんなもんか。それを形にしてみたかった。

ミヤギさんやデザインの宮川さんにそのアイディアを話して、ダミーを作って見てもらった。賛同してもらったのはいいけれど、さあそんな長丁場のものをいったいどうやって作ったらいいのか、果たして可能なのか。そのときはわかっていなかった。そして作ってくれそうな印刷まわりの業者探しがはじまった。

あちこち人づてに聞いてもらったり、ウェブで探したり、探す業種の範囲を広げたりとやっていて、うーん、これは難しいかなと思いはじめたときに、ぴったりの業者さんを見つけた。博美堂さんといって、学校の副教材に使われる掛け地図を主に作っている会社。社会科の授業のときに、黒板に掛けて使うあのロール式の地図だ。創業80余年、掛け地図製造では全国でNo.1のシェアだそう。

わたしが博美堂さんのHPを見ていて、あっ、と思ったのは手折り製本による蛇腹の地図を見たとき。この地図が非常にユニークで、蛇腹折りの地図が川の蛇行のとおりの形に再現されている。そして畳むとちゃんと長方形の本の形におさまっているのだ。なんと楽しい地図なんだ!と感激。こうした手作業の仕事をしているところなら、熟練した職人さんがいたり、作業も合理化されているのでは、そして「シカ星」の本のアイディアの相談に乗ってもらえるのではと思った。そしてその通りだった。作業工程から、紙取り、安く印刷できる方法など、きめ細かく教えていただき、制作の相談に乗っていただいた。これがなかったら、この本は実現していなかったかもしれない。

他の印刷関係の業者では、まずこの長丁場のものを作るノウハウや経験がなく、できると言ってきたところもあるにはあったが、莫大な(葉っぱの坑夫には支払い不可能な)見積が出てきた。これは合理的な作業システムや職人的な人材がないため、かえってコストが膨らんでしまうのだろうと想像された。一見逆のようだけれど、熟練した人材と経験の深さはコストを下げるのである。

博美堂さんの蛇行地図は一見の価値ありのもの。HPには職人さんの作業風景が載っている「裏打ち」や「紙継ぎ、貼り合わせ」などの紹介もあり、現場の様子が垣間見られてとても楽しい。

本をつくる、ものをつくる。作家やデザイナーだけでなく、本に形を与え、仕上げをしてくれるプロの方々との仕事は本当にわくわくする。貴重な体験でもある。


7.25 これは「本」なのか(地下 - 裏に全詩を収めることを決める)

7月出版と書いてありましたが、制作が遅れているので8月になってしまいそうです。出版は8月に変更、ということでよろしくお願いします。

なにしろあまりない形態なので、デザインその他、着地するまでいろいろあります。
この本の形態ですが、1枚絵にして蛇腹折りと書いてあっても、なかなかイメージするのは難しいかもしれません。どう言ったらいいのでしょうか。

紙としては、長大な1枚のものからできています。紙の大きさは、25.6cm×291.2cmです。この大きさの紙に、ミヤギユカリさんがまずベースになるランドスケープの絵を描いていきました。この絵を、上下二つに折ります。すると12.8cm×291.2cmの大きさになります。それを順番に端から経本のように折っていくと、横長B6のサイズの本ができあがります。

上下二つに折るため、1枚絵に開いた状態のときは、鏡面のように絵が上下がさかさまになっています。そのようにミヤギさんに絵を描いてもらいました。これがまた、不思議な光景なのです。

蛇腹に折られた本は、本のように1頁ずつ繰って見ていってもいいですし、ときどきアコーディオンのように風景を広げて見てもらっても楽しいです。広いスペースがあれば、本を全開にして見ていただくと壮大な眺めが体験できます。

順に頁を繰って見ていく場合、折り返し地点にきたら、今度は裏側を進んでいきます。この裏側は、1枚絵でいうと、下側に描かれた絵の部分にあたります。そしてこの面を進んでいくと、最後には、最初の扉、スタート地点である表紙にもどってきます。(なぜか「いつのまにか」という気がするのです)

理論的には別になんの不思議もないことなのですが、実際に頁を繰り、内容を読み進み、その繰りのリズムや時間の流れ、風景の連なりに身をまかせてみると、普通の綴じられた四角い固い本の世界観とはかなり違った体験をしたような気になります。

「本」というものが、複数の紙の束を糸や糊などで綴じて1つにしたもの、という定義だとするなら、これは本なのか。固い表紙もない、表紙も中身も一体なのですから。こんな「本」の境界線をゆらゆらさまよっているような、本のようで本でない、本でないようで本としか言えない、そんな存在の「何か」です。

そしてこの「本」には、実は裏、というか隠れている内面がありました。1枚絵は裏白の予定でしたから。ところが、ここへきて、考えが変わりました。デザイナーの宮川さんとの話し合いで、その隠れた内面に「シカ星」の表代作も含めた13の詩を、入れようということになりました。1色でテキストだけを入れようと。詩集「シカ星」の全13の詩の世界があって(地下に)、それをベースにした表代作「シカ星」の詩の世界が地上にある、というようなイメージでしょうか。

この本は、出来上がって、手にしてみないことには、手触りも開いたときの感じも本当には実感できないのでどこか落ちつきません。なんというか、どんな体験になるのかが、もうひとつ、プランからだけではイメージできないのです。そこが楽しみでもあり、デザインが苦労しているところでもあります。

 


9.05 入稿しました!!! 中旬には仕上る予定です。(今度は間違いなし!)

おやっ、本の仕上りはこんな感じ?
これは実は、、、


8月には出版します、と言ったきり、出版のお知らせをしないまま9月に突入してしまったので、心配しての問い合わせもいくつかいただいてしまいました。

ご報告が遅れましたが、8月29日午前11時、無事入稿を済ませました。その後、少しデータの調整などがあり、9月2日の午後にはフィルムから出力した校正紙で、デザインや文字を確認。今日、印刷の博美堂さんに直しを戻し、明日かあさって直しを確認して校了となります。

その後の工程としては、本刷り印刷、紙を断裁してから蛇腹にするための貼り、折りの作業に入ります。聞いているところでは、B2分のデータを紙に面付けして、3回貼り合わせて16頁分(上下で32頁分)ができるとのこと。当初はB3分のデータで7回貼り合わせと聞いていたので、貼り合わせが少なくなり、その分よりくるいのないものができそうです。貼りと折りの作業は手作業で、熟練した職人さんにやっていただきます。経本や表装加工などをする専門職の方々で、高齢化して引退される人も多く、また若い世代でやる人がいないので、職人さんの数は年々減る一方だとか。
(以前にも書きましたが、とてもいい風景なので再度、博美堂さんの「紙継ぎ」の現場をご紹介します。)

貼り、折りの作業が終ったところで、最後に化粧断ちといってサイズにきれいに仕上げて断裁し完成、という手順になります。

さて、出来上がった本ですが、どんな風にパッケージするかこの何ヵ月間考え続けてきました。候補としては、DVDの透明トールケース、クリア封筒、布に包む、太い平ゴムで留める、などいろいろアイディアが宮川さん、ミヤギさんからも出ていて、サンプルの取り寄せもしてみましたが、最終的に決まったのは、透明のプラスチッククリアケースです。

これはオーダーでつくっています。キャラメルケース型の組み立て式で、納品は折り畳まれて届くので、場所を取らないというメリットもあります。オーダーですから、欲しいぴったりのサイズでかっこうよく作れます。型をつくっての作業です。型代はそんなに高くありませんが、本の部数分(500部)だと単価が高くなってしまうので、考えた結果、最低数量の1000個つくることにしました。後の500はどうするかって? もう1册、この蛇腹スタイルで本をつくればいいのです。というか、いい題材、アイディアさえ浮かべば、そして資金さえ準備できれば、もっとつくりたいです。最低でも蛇腹シリーズとして3册くらいは。

このクリアケースですが、製作をお願いしたハヤシさんから規格サイズのサンプルをまず送ってもらいました。サンプルの一つが13cm×9cmで厚みが2.5cmというもので、ちょうど以前につくった「シカ星」のミニサイズのダミーが入りそうだったので、ケースに入れてみました。なかなか見映えはグッドです。難しいのはオーダーのサイズを決めるとき、どれくらいの「ゆるみ」を取るかでした。ハヤシさんによれば、0.5mm違えば印象が変わるのがこの世界、通常は1mmから1.5mm、多くて2mmくらいのゆるみを持たせるそう。1cmなんていったら、もうゆるゆる(好みもありますが)だそうです。実際、サンプルケースを元に試作してみたらその通りでした。

本の方も、手折りということで誤差が出ると博美堂さんから聞いたので、それも計算に入れることにしました。が、その手折りの誤差とは、たった±1mmなのです。日本の職人さんってすごいですね。本のサイズの誤差のことをハヤシさんに伝え、さらに博美堂さんに作ってもらった束見本(仕上りの感じを予測するためのページ数分の紙を綴じたもの)を送って、ゆるみを見積ってもらうことにしました。最初はわたしの方でサイズは決めてくれと言われていたので(好みもあるので)、2mmにすべきか、ちょっとゆとりをもたせて2.5mmとっておくべきか、頭を悩ませていましたが、結局、ハヤシさんの方が「束見本を見て、こちらで見積ります」と言ってくださいました。ポイントは、出し入れがすっとできて、だけどゆるみは最小限に。ただし厚みは宮川さんのアドヴァイスで2.5cmとたくさんゆとりをもたせました。こうするとケースを立てることができ、ショップなどのディスプレイでも平に置くだけでなく、面白い置き方ができるのです。それと2.5cmの厚さのケースに蛇腹を入れると、ケースの中で紙がきれいにひろがって、蛇腹の本であるということが一目でわかります。

クリアケースに入った赤と黒だけの美しい蛇腹本がまもなく出来上がります。ショップでの見え方、手にとったときの感じ、仕上るのが今からとても楽しみです。前回書きましたが、内面には表題作「シカ星」を含めた全13のアメリカ・インディアンの詩が収録されます。こちらの面はスミ一色でテキストと絵の世界が展開されています。ただし内面はエクストラ的なページなので、中を読むにはちょっと術がいります。ひろーいお部屋で本を大きく1枚に広げていただくとか。

今回、郵便(冊子小包)での納品を前提に、地方のブックショップやセレクトショップ、ミュージアムショップなどにもアプローチしてみました。その結果、いくつかのショップから興味をもっていただきサンプルを送ることになっています。実際に置いていただくことになったら、一度は見に行きたいなあと夢は広がります。


ケースに入ったところ


9.16 モノの大きさ、ということ。(本は少しずつ納品されることになりました)

パソコンやインターネットに限らず、生活のさまざまな面でアナログからデジタルへの移行がが進んだため、モノの質量や価値の受けとめ方が平板になったような気がします。キャッシュレスで日々の食料品を買い物したりしていると、モノの値段にもうとくなります。棚から欲しいものを欲しいだけ取り、カートに入れ、レジでカードを渡す。はい、終り。のように。

今回の蛇腹折りの本では、デジタルデータで入稿して本をつくるのは今までと同じなのに、モノの大きさということを各プロセスで思い知らされています。

まずデザイン。イラストレーターというデザインソフトでデザインをしたのですが、この蛇腹の本は長さ約3メートルにも及ぶ絵とテキストから成る一つの大きなファイルなので、ファイルを開くにも、スクロールするにも、他の形式に変換するにも、紙にプリントするにも、と何をするにもコンピューターをうんうん言わせる力仕事(といっても、えらく時間がかかるという現象で現われますが)なのです。

デザインの上がったファイルから、中身のページデータをもらうにも、JPGなどに変換しようとするとあちこちでデータが飛んでしまったり、出力見本のプリントも実寸だと1時間もかかってしまうとか。大きさ(長さ)の前にコンピューターも立ち往生状態なのです。

デザインの宮川さんは、この長さ、大きさと格闘しながらデザインを進めてきたわけですが、一時はコンピューターではなく、昔の版下作業のようなやり方で、紙を実際に切り貼りしてデザインしようかと思ったくらいだそうです。(でもそうすると、それを今度、コンピューターにどうやって取り込むか、という問題が発生してしまいます)

大きさの問題は、デザイン作業だけでなく、貼り、折り、の工程にも影響が出ているようです。大きな地図などを作るための貼りや蛇腹製本を得意とする博美堂さんですが、今回の蛇腹本は「長さ」において少し特殊だったようです。

長丁場という言葉は、「ものごとが長々と続くこと」という意味だそうですが、まさにこの本は長丁場という言葉がぴったり当てはまります。前回も少し書きましたが、作り方としては、B2半裁の紙を3回のり付けして繋ぎ、約3メートルの長い一続きの紙にします。それを、上下まず二つに折ります。長丁場の紙をどうやって二つに折るのでしょうか。一人ではまず折れそうもありません。二人でも無理かもしれません。両端に一人ずつ、真ん中に一人、計三人で折るのでしょか?それとも道具を何か使って?

上下半分に細長く折った後、B6のサイズに端から折っていくそうですが、これまた長丁場が災いして、そして使用紙が少し嵩のある紙なので、すでに折ったページには紙の厚みの影響が出ていることから、まだ折っていない平のページと寸法を合わせて折っていくとき、紙に大きなストレスが掛かるのだそうです。ふぅーー。ここでも格闘が待っていたのですね。

3メートルといえば、一人の人間の背丈では追いつかない長さです。何をやるにもこの物理サイズがために、格闘を呼び込んでしまっているのかもしれません。その格闘の跡が、紙のよれやシワになって出ないよう、今、職人さんたちが頑張ってくださっています。

デザインの途中で、宮川さんが「だんだん体が長さに慣れてきた」というようなことを言っていました。ブックデザインのエキスパートである宮川さんがこうなのですから、貼り、折りの職人さんたちも、この長さに体が慣れるのに少しの時間が必要なのかもしれません。

というわけで、印刷は終っていますが、貼り、折り作業は昨日やっとこて試しに入ったところです。その中から少しだけ、特別に先に分けていただきました。その画像は、明日にでも撮影して、ご紹介したいと思います。

本は22日にまず先だし分として100部程度納品される予定です。残りの予定は、その過程を見ながら順次、ということになりそうです。長丁場の本ということで、読む方も、たぶん読む際に格闘を強いられるかもしれませんが、それも含めて楽しんでいただけたらと思います。

モノの大きさ、ということについて言うともうひとつ、配送準備作業においても、つくづく形あるモノを扱うことの難しさを感じています。本を送るためのブックケースの注文をこの2、3日でしました。これはまた次回にでも。


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