少し残念に思いながら、街を散策していたら、
プラハの風景には、それでもなんだか少しミステリアスな、独特な空気感があるように感じ始めた。
昼間なのに、妙に静かな通りに漂う、何かの気配のようなもの、
角をひとつ曲がれば、別世界が始まりそうな気持ちがしたり、
景色のどこかに何かが仕掛けられていそうな、ざわざわするような、奇妙な雰囲気。

初冬の冷たく澄んだ空気の中、紅葉の彩りが反射する、川向こうに佇むお城と、
雲が濃く陰影を落としている空に、ぽっかり浮かぶ飛行船とを眺めていたら、
木々のシルエットすら意味ありげに見えてきて、
シュルレアリスムの絵の中に迷い込んでいるような気持ちになってきた。

そんな気持ちで、一人歩いていたら、
川岸のベンチに、見覚えのある男の子がぽつんと座っていた。
ウイーンから、プラハに移動する時同じバスに乗っていた、韓国人の旅人、ムチン。
わたしを見ると、すっと立ち上がって、話しかけてきてくれた。
日本のTVドラマが好きで、見ている内に、日本語を話せるようになったそう。
一緒に橋を渡り、あてどなく歩きながら、喋り続けた。

テレビ番組の話、恋の話、食べ物の話などしていると、外国人と話している気がしない。
けれど、北朝鮮についての思いや、徴兵時代の話を聞くと、
同年代の日本人は持つことのない感情や体験を持っているんだなあと新鮮に感じた。
「本気で攻めてくるなんて、誰も思ってないけど、一応防備のために
徴兵しなきゃいけないから、みんな北朝鮮のことをめんどくさい存在だと思ってる」 
(つつぎを読む)

23. 扉をひらく〜プラハ(チェコ)