体力や気力がないと、太刀打ちできないと思えた。
普段軽いものに慣れすぎているのかもしれない。
現代作られている建物で、数百年後も残っているものがどれだけあるだろう。
こんなにも普及しているコンピュータも永遠ではないだろうから、今の時代のデータが見られない時代も来るだろう。
その時代でも、もしかしたらこのイタリアの街並や美術館の作品は残っているかもしれない。

そんなことを考えていると、なんだか街を抜け出したくなり、川沿いに向かい、橋を渡る。
建物や喧騒から離れると、途端に空気が変わって、気持ちがほどけた。
前日、夜景を眺めに行った丘の上の広場を目指す。
これまでで一番馴染めなかった街なのに、見下ろす景色は、不思議とこれまで見た中で一番美しいと思った。
なんともいえない華やかさと品があって、普段出てこない「高貴」という言葉が頭に浮かんだ。
離れてみると、近寄りがたかった大聖堂や教会に、特に心が惹かれる。
私はあの古い建物たちが嫌いな訳ではなくて、今はこれくらい距離を置かないと味わえないんだなと思った。
階段に腰掛けて、日が沈むまでそこで過ごすことにした。
旅の間何度も思ったことだけれど、わたしは、街のような人間が作ったものと、山や海、空の色が変化していく様子などを同時に眺めることがとても好きなんだなあと感じた。
朝焼けだとか夕暮れの様子をただぼんやり眺めて過ごすことが、一番落ち着く。
この時も、日が落ちかける頃には、少しづつフィレンツェに馴染めそうな気分になった。
それで、日が沈み切る前に丘を降り、街に戻って、橋の上から夕焼けを見ながら、ジェラードを食べようと思った。

8. 街になじめない時〜フィレンツェ(イタリア)