わたしがゴットランドに着いたのは11月で、毎日3時頃には日が暮れ始め、
日中の空も渦巻くような雲に覆われていた。
苔むした丘に立つと、たくさんのオレンジ色の三角屋根や廃墟を囲む古い城壁、
その向こうに切り立った崖と暗い色の海が見下ろせる。
夏になると、白夜が続き、町のあちこちにバラの花が咲き、ビーチは観光客でいっぱいになるらしい。
夏なら出かけるところがたくさんあるのにねと言いながら、ある日夫婦はドライブに連れて行ってくれた。
ゴットランドの北部にある、ファーロという島。
ゴットランドの森の中を、北に進む。
ファーロは、昔ゴットランドと陸続きだったようだが、現在は分離しているので、
車ごと船に乗り、ほんの少し海を渡る。
ファーロに着いて、更に車を走らせると、湖のそばの空き地にテーブルと椅子を見つけた。
そこで車を停めて、ピクニックをすることに。
海から吹きつける強風の中、ポットに入れて持ってきたあったかいコーヒーとパンを持ち出して。
寒くて寒くて、笑っちゃうほど寒くて、5分間くらいの超スピーディーなピクニック。
座ってなんかいられず、みんな立ったまま、歩きながらコーヒー飲んだり、パンを齧ったり。
あっという間に後片付けして、車に戻った。
幻のような時間だった。
それから来た道をゴットランドに戻った。
旅するまで名前も知らなかった、北欧の小さな島を、優しくキュートな夫婦と友達と一緒にドライブ。
友達がタイで二人に出会ったことが、こんな時間につながっていて、
そこに自分も混ぜてもらっていることの幸せを感じていたら、
突然、森の茂みからもこもこした羊が現れ、車の前を横切った。
その後次から次へと羊が・・・
羊飼いの姿は見えなかった。この子達は、どこから来て、どこへ行くのだろう。
車を停め、森の奥に、一列に並んで消えていく羊達を見送った。
自分の心の中と、車窓の風景の境目がぼやけていくような、誰かの夢の中にまぎれこんだような、
そんな不思議な気持ちになったことを、今も時々思い出す。

2. 冬のピクニック〜ゴットランドからファーロ(スウェーデン)