|糸ごよみTOPへ|
ミカの糸ごよみ 2
赤いより糸
------------------
ゆうべ、氷雨が降った、
常緑樹をかがやかせ
ア・ノ・タッシュを洗いながし、
丘じゅうにキラキラする
ビーズをまいていった。
母がゆうべ死んだ
眠っている間に。
*ア・ノ・タッシュ=ヤカマたちの丸小屋
緑のより糸
------------------
光でまぶしい朝。
雪に太陽が反射する。
母は埋められる
黒岩の斜面のした
二本の細い棒が、めじるし。
結びこぶ
------------------
ドカにたくされた魂が
山から帰る。
今日から5日間、
わたしたちは踊りつづける
守護神の霊の踊りを。
シカの皮ひも
------------------
山ヤギの毛を
丘の斜面のやぶで
梳いては集めていると
川が溶けた雪で満ちてきた。
クオナが大人になる日が近い。
この子は知らない
自分を大人に変えていく
変化のことを。
あたしはクオナに自分の話をする、
そしてこの糸ごよみのことを教える。
白いより糸
------------------
熱い風が
ティーピーの布とびらを
むち打った。
クオナの出血がはじまった。
顔にペイントをしてやり、
やわらかなモミの枝で
頭飾りをつくり、草原に連れていった、
母が埋められている近くの。
結びこぶ
------------------
太陽が赤く沈む。クオナは
ここから離れた
木の皮の丸小屋で眠る。あの娘は
ひとりで断食し、祈り、
小枝を積み重ね、
その針葉をぬいて過ごす。
結びこぶ
------------------
ずっと昔のこと、あたしはすごく悩んだ
もしこのまま血がとまらなかったら・・・
カラダをきれいにするため、水浴びをした
氷のような川で、恥ずかしかった
水にできるシミが
その年のあと、ドカが結婚を
あたしに約束した。
ふたこぶ結び
------------------
クオナが帰って来た
わたしたちの丸小屋に。あの娘は
しずかに床にすわって、
蒲(がま)のマットを編む。
ひとりの若者があの娘に
愛のお守りを仕掛けていった。
あたしは、その人がマツヤニを
ツガの木の上に置くのを見た。それは
ハチドリの足をからめとるためのもの。
ミニチュアの心臓はなにより素晴らしい
お守り、と言われている。
青いより糸
------------------
火をかこんで、ドカと
太陽をもたない男の一人が話している。
ふたりの影がかわいた空気に
さざ波をたてる。
男は、毛布10枚、鉄のワナ3つ、やかん1つ、
焚きつけ山ほど、銃1つを提供しよう
もしクオナが妻になるならばと、申し出る。
クオナがこの男と結婚したら、
12の月暦がめぐってくるときにしか、
会えなくなるかもしれない。
黄色い糸
------------------
夜明けに、
若い男が大声で歌っている
村のはずれで。
「太陽がのぼる、
オレはオレの愛のこと想う。
オレの愛のこと」
クオナは仕事から
目を上げない、でもあたしにはわかる
あの娘がほほえんでいるのが。
緑のより糸
------------------
ドカは決心した
太陽をもたない男の申し出を受けることを。
ドカはあたしにこう言う、
「あの道具は役に立つ、それに
クオナも大切にされる」
結びこぶ
------------------
あたしはクオナのために
結婚式の準備をする
髪を洗い、
しなやかなシカ皮の服を着せ、
それから最初の結びこぶを
あの娘じしんの糸ごよみにつくる。
贈りものが届いた
カヌーで。ドカは幸せそう
いいものをたくさん手にして。
クオナの黒い髪をとく。
木のクシは使い古されて
草原で新芽をたべる
2匹のシカしかもう見えない。
このページのトップへ |
クオナの糸ごよみ1へ