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ミカの糸ごよみ
結びこぶ
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北風がピューと、アシのくぼ地で鳴る。
呪術師が水晶を三つぶ落とす、
三回落とし、
嵐をしずめるために歌う。
白いより糸
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小屋が二つ、うずまき風につかまって裂かれる。
燻製の山羊とシャケが、足元に落ちているのを見つける。
そのとき、鼓動を感じる、
はじめて感じるの痛みの矢、
赤んぼうが押し出てくるよう。
白いツノガイの貝殻
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雪が、午後の間じゅう、降りつづく。
二人の男の子が、雪ぐつウサギを
ウサギ穴へと追いつめる。
あたしの深いところで、それが呼吸する。
昼も夜もあたしは戦う
屈強な男だって想像できないくらいに。
この子供が、欲しい。
灰色の毛の結びこぶ
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一匹のハイイログマが、村を歩きまわっている。
ドカと男たちが、追いやりに行く。
少ししてドカが来て、もう恐くない、
とあたしに言う。ドカが、
木のくしをくれる。
縁に、三匹のシカが彫ってあった。
結びこぶ
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かあさんが、あたしの手をにぎって
励ましている。「もう少し。
もう少しよ。そうそう。」
生まれたての子ジカみたいに
へたりそうになった、そのとき、
赤んぼうがあらわれて、光り輝いた
暗いティーピーの中で星みたいに。
澄んだ青いビーズ
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そこらじゅうの草地が、もえている
赤い小さな花におおわれて。シカたちが
山から降りてきて
川のほとりで水をのむ。
ドカがあたしに、男の子が欲しかった
娘じゃなくて、と言う。暗い森に行って
ひとりで泣く。あたしはクオナを愛してる。
ボタン
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太陽をもたない男たちの一団が現れると
村は、女たちだけになる。
男たちの顔は、毛でおおわれている。からだは、
皮膚でおおわれているのに。
男たちの動物にさわる。あたしより
背が高い。背なかに斑点もようがついていて、
水面にできた輪のように美しい。
男があたしの方をむいた。そして
穴の二つあいた小さな貝がらをくれた。
黄色いより糸
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あたしたちは、狭い川まで旅をする。
じぶんで研いだヤナギのやりで
シャケを射る。
片足でバランスをとり、
やりをぐっと突っこんで、
あたしの最初の獲物、
卵で重いメスを殺す。
クオナはトクィナットとわたしたちが呼ぶ、
銀ジャケを、ドカのもとに運ぶ。男たちは
ドカが魚を手にとって
卵を石の食器に掻きだすのを、
腹を切り開くのを、
骨という骨から
肉きれを剥がし取るのを、見ている。
きれいになった肉を
ミントの葉で包んで
クオナに手渡し、ドカは微笑む。
小さな黄色いビーズ
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この夏最後の、花を摘む。
親ジカと子ジカが、
草地のへりを歩いてきて、
長いこと、泉で水を飲み、
飛び跳ね、去っていく。
クオナがシカ皮の上で遊んでいる。
イナゴが、茶色の汁を出すまで
もてあそぶのを、やめない。
結びこぶ
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もっとたくさんの太陽をもたない男たちが
村を通りがかった。男たちは
長居し、大きな声で笑い、あたしたちから
あらゆる動物の皮を買っていく。
ときどきは
ヒナユリの根っこやサーモンベリーの芽を
熱い地面の上で焼いた後に、
男たちのために、シカ肉を料理することもある。
男たちが、きれいな色の布切れをくれたから
それをあたしの
黒と白の毛布に編み込もうと思う。
*ヒナユリ=北米西部産ユリ科カマシア属の植物の総称
*サーモンベリー=北米大平洋岸産のキイチゴの一種
大きな黄色いビーズ
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ドカが狩りからもどる、疲れている。
ドカが初めて、クオナを腕に
抱いて、ぐっすり寝いる。
あたしは表に出て ダンス用のドレスの中で
木の皮を粉にし、
草の根っこをゆで、そして泣いた。
結びこぶ
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ミオワがおくりものを置いていった。
なめして、きれいにした
ヘラジカの皮を2枚と、トウモロコシの袋に
いっぱいのヘラジカの歯。
ミオワはドカのこと、きいている。
あたしは、新しいシカ歯のドレスを
2枚の皮をつかって、ていねいに縫う
過ぎ去った暗い秋、残り火の
くすぶりを縫いこむ。
結びこぶ
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冬が近づいてきたので
わたしたちは平地におりていく。
ミオワの子が病気で
熱をだしている。
みんなは、その子を
置いて行ってしまう
残りたくないから。
あたしはその子を世話する
ミオワが疲れて
倒れたから。ミオワは
たよりなげなアシ、息子の
呼吸がしっかりするのを
待ち望む。
結びこぶ
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はじめての雪がふる、あたりは
静かで、おだやか。
ミオワの元気がもどり、ひとすくい
ハックルベリーの煮たのを
木のボールから食べる。
わたしたちは、病気の子に
水をのませる。その子のおでこが
火のついた炭のように熱い。
あたしは、この子が死んでしまうと恐れる。
結びこぶ
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月が満月の日
夜になって
ミオワの子が泣きさけぶ。
その子のカラダがすごく熱いから、
わたしとミオワは、毛布を
ぜんぶはぎとった。
その子は冬の川に
身を浸したように
はげしく震えはじめた。
乾いた草の結びこぶ
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黒と黄色の熊草を摘んで
かごの中に巻いて入れる。
野桜の木の皮で
くちびるを濡らすと
夏の味がする。
- ミオワの子が走ってく
ガマやトウシンソウの草を摘む
わたしたちのずっと前の方を -
*熊草=beargrass(糸蘭属ユッカの総称)
こはく色のビーズ
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呪術師が水晶を三つぶ落とす、
三回落とし、熱の悪霊を
引き離すために歌う。
呪術師は熱をつかみ取ると
もってきたイモリの皮になすりつける。
そうしているうちに、その子の熱が
消えてなくなる。
ミオワとあたしは、ふたりして
しっかり抱きあう。この子が
助かったとわかったから。
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