タンポポのタネが風にのって・・・


さぁ、このちいさなエイゴ・ハイクの句集を、どう紹介しましょうか?
1ページにひとつづつ(英語の原詩と、日本語の訳詩とで)しるされているそれらを読んでいるうちに、こっちまで、その街のなかへ招かれているような気分になってくるんです。そう、まるでじぶんがニューヨーク、アパアト暮らしをしているような、そんな気分に。

たくさんの情景が浮かんできます。夜あけのソーホーにたむろするハトたち、ビルの谷間のマンホールから天をめざして立ち登る水蒸気、通りからただようピザやチャーメンのにおい、行き交うタクシーのクラクション、グラフィティー・アートに飾られた地下鉄、うるさい教会の鐘と静かなアダルト系本屋さん、そしてロッカウェイ・ビーチの波に溶ける虹……。

エイゴ・ハイクって、なんでしょう?俳句にインスパイアされた短詩? いいえ、それは、英語を使う人たちの手によって、じぶんたち自身の世界を通して描き出される「俳句的なるもの」の存在の表明なんですね。ぼくもこの本の(背筋のしゃんとした)リンズィー氏のまえがきによって知ることができました。(この文章は、日本における俳句への気づかいもあり、それでいて明確な文学観も伝ってくる、いい文章ですよ)。それにしてもおもしろいねぇ、タンポポのタネが風にのって、やがて遠くの国で花を咲かせるみたいでさ。

ぼくは読んでいて、リチャード・ブローティガンのことをおもいだしましたよ。そう、眼に見える世界の向こう側に、<アメリカの鱒釣り>という観念を探し求めた、あの心やさしい詩人のことを。

とはいえ、この本の俳人ポールさんの方は、もっともっと元気で、タフで、それでいて、やはりじぶんの世界をたっぷりいつくしんでいて。『マック・ザ・ナイフ』がチャートのトップをかざった日にニューヨークのロックヴィルセンターで生まれたそうですが、さぁ、いくつくらいなんでしょうね。

朱雀正道(写真家)

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