この作品について

「雨の降らない土地」はアメリカ、カリフォルニア州の沙漠地帯について書かれたエッセイ集です。著者のメアリー・オースティンは地名をあえて正確に書き記してはいませんが、シエラ・ネヴァダ山脈の東側の一帯、南はデス・ヴァレーやモハヴェ沙漠に至るあたりまでのことを題材にしています。地図

沙漠地帯ということで、日本人には馴染みのない気候、地形、野生動物や植物がいろいろ登場します。文化や民族についても同様で、地名ひとつとっても、オースティンが好んで取り上げるインディアン名(ハイワイ、オッパパゴーなど)や、スペイン語名(エル・テホン、カニャダ・デ・ロス・ウバスなど)が頻繁に見られるように、ピューリタンの英語のみが響いていた土地ではない姿が映し出されています。

実際、この土地でオースティンが心を傾け、多くのことを学び、たくさんの時間をともに過ごしたのは、野生動物の他には、この土地のインディアンであり、スペイン語系移民であり、鉱夫や羊飼いの人々だったようです。オースティンはイリノイ州の出身ですが、1800年代後半、農地開拓や金鉱を求めて人々が西部へと押し寄せた頃、家族とともにカリフォルニアに移住してきました。そしてベイカーズ・フィールドやオーウェンズ・ヴァレーの谷間の小さな町を転々と移り住みました。

この作品はオースティンがこの土地に住み始めて十年以上もたった1903年、長年の沙漠歩きと自然観察の経験が血肉化し熟成の時をへて、あるとき一気に吐き出され、書き上げられたもののようです。

オースティンは言います。「もしこの土地にやって来て、キアサージュの麓の谷間の町まで来ることがあったなら、通りの一番端にある柳の下の茶色の家のドアをノックするのを忘れないで。この土地の情報、道の選び方、今どこで何が見られるかなどの話を手にすることができるはず。ここを心から愛する者から来たる者へと、それは手渡されるでしょう。」

オースティンの住んでいた家は、今もキアサージュの麓の町に、Mary Austin’s Homeと書かれたボードを門に施されて建っています。

訳者:だいこくかずえ

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The Land of Little Rain | 雨の降らない土地