この山道を旅するのに一番の季節は真夏、と言われても信じないでほしい。そう、多分、単なる怠けもの、スポーツマンタイプ、自然観察屋にはいいかもしれないが。でもよく見て、理解するためなら、少しでも長く滞在できる時間のあるときが一番。そしてあなたが品位をもってこの場所に近づこうとするなら、ヒントはこんなところか。身軽に旅し、土地のものをできるだけ食べること。マリガトーニ・スープや缶詰のロブスターは、森暮らしの楽しみをもたらしはしない。

 どの峡谷もそれぞれその場所ならではの楽しみをそなえている。こっちでは松の木が、あっちではマスが、荒涼とした花崗岩の岩壁の美しさもあれば、遠くの虹色にきらめく滝もある。そして前にも言ったように、行きやすい道はあるものの、どの峡谷も雲を負う砦へと続いている。まず、峡谷の口のところで腕をこんもり広げてうずくまる一枚葉の松を見つけるだろう。ひと目見ればそれとわかる木で、まあるい、樹脂のしたたる球果は味のいい種子を宿し、パイユートの主たる食糧となっている。たぶん、親切にも松が積雪の境界より下に育つのはそのためで、谷に向かう斜面でもっさり群れて生えている。松林は、地溝部のところで、深いため息を風に乗せて吹き上げる長葉のジェフリー松によって本格的に始まる。それにしてもこんなにいい仲間がいるのにため息などつくなんて。ここからはマンザニータも始まり、巨礫の荒れ地に曲がりくねった堅い幹でなんとか生え上がっている。すべすべした赤茶色の枝から、明るいオリーブ色の葉っぱが向きをひとひねりして生えている。またシモツケソウ、つやつやした月桂樹、誰からも振り向かれることのないたくさんの珊瑚色のラッパ、ペントステモンの赤い花々が生え始める。野生動物も低地の松の境界付近では活発なようだ。うろのある木や巣のある岩で野生のハチを見つけるかもしれない。ハチのぶんぶん、カケスのぺちゃくちゃ、リスのちょろちょろと騒がしい。空気は熱く生きものの匂いがたちこめる。川の轟きが朝夕の狭間を満たし、夜になればシカがバックソーンの茂みに餌を食べにやって来る。長葉の松の生育地付近は、一年通して観察する価値がある。一ヶ月、二ヶ月と、活動的な山の住人たちに狙いを定めて、彼らが雪の限界地点まで行くのを追跡するといい。そこには普通見られるよりずっとたくさんの花が咲いているだろう。

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