8.籠編みセヤビ

「男っていうのは、」と集落のセヤビは言う。「女が必要だけど、女は子どもがいれば何とかやっていけるものさ」。

 そう言えるのは多分、セヤビは連れを部族の生き残りをかけた戦いの中で失ったけれど、新たな連れ合いを持たず、自分と小さな息子をなんとか養っていく知恵を身につけてやってきたからだ。最初のうちは、二人分の食べ物を手に入れるのも困難だったに違いない。パイユート族はビター・レイクの湖岸で最後の抵抗を試みたが、追いつめられて水の中に沈んでいった。そしてこの地は牛飼いと金鉱探しの男たちに埋め尽くされた。戦いの間、セヤビと息子はブラック・ロックの洞穴で寝起きし、イグサの根っこを穫ったり、泉で淡水貝を足先で掘り出して食べていた。部族がとうとう敗北を認め、戦いが鎮まるまでのしばらくの間に、セヤビ母子は最低限生きていくためのすべを手にしていたのだろう。そのときセヤビは母としての知恵や力を授かったのだ。そして想像されているよりずっとたやすく、男なしで女は生きていけることも悟った。

 どんな生活であれ、そこでの暮らし方を会得するには、自分の住んでいる土地について、そこで一年がどのように過ぎるかを知る必要がある。ここの谷は谷巾が狭く、山と山の間のごく狭い凹地。嵐の通り道であり、カラスのひとっ飛びくらいの巾で、雪のシエラの急斜面と赤褐色のうね模様があらわな荒涼としたワバンの丸い丘に挟まれた谷だ。凹地の真ん中をどんよりした流れが、河床を掘り進みながら160キロメートル近くもつづいている。川はその始まりで北の溶岩台地を切り裂き、最後は川幅を広げて干満のないよどんだ水たまりの湖となる。このあたりの山並みは前山を持たず、河岸の段丘から急傾斜でそびえている。シエラの山の東斜面は雨がほとんど降らないが、きらめく白い水流を低地帯に向かってほとばしらせている。その流れに沿ってずっと、茶色い編み枝の束を積みあげた集落の小屋が東を向いて並んでいる。

>>>
もくじ