馬の背の高さから見下ろせば、風で表情を変え続ける黄色い大地の上にきれいな場所がところどころあって、見ればそこは磨きたての床のように何もない。歩を進めて両脇から山かげが迫りはじめると、砂地の縁に小さな白いものがひらひらしているのが見えてくる。日が暮れる頃には、薮木の風下のどこにも小さな吹きだまりが出来、それは先っぽをバラ色に染めた小さな草花というより、雲から振り落とされた本物の雪片みたいにメサの風に舞っている。一晩中舞い続け、そのせいであたり一面、ジャコウのような甘い濃厚な匂いに満たされる。

 メサの小径をずっと南まで行くと、足首を埋めるケシの花が咲いているだろうし、あっちに一つこっちに一つ、背の高い茎のてっぺんで風に震えるカロコルタスの色とりどりの泡立ちに出会えるだろう。でもそういった華やかな花々の季節がやって来る前に、美しい花色をめいっぱい見せてくれるのはルピナスのウォッシュ。浅くて幅広い、石だらけの水の引いた川底にルピナス・オルナタスの小山があちこちに出来て、春には灰緑色の冬には銀白色の優美な見映えでウォッシュを埋めつくす。見た目は、花色を除けば草の群生のようで、インディアンの枝編み小屋のようにも見え、大きなものは人の背丈くらいの幅がある。ギリアの花の開花の後、ヒエンソウの受粉期の前、ルピナスは最盛期をむかえ、主幹から短い花茎をらせん状に出していって花を咲かせ、ずっと青色のままではなく、白くなったり紫がかったりして、蜜を吸いにくるハチたちを未受粉の花に呼び寄せたり、もう空っぽになった花から遠ざけたりする。主幹から出る花茎の長さは、花全体が丸みを帯びた輪郭になるように伸ばされ、それがウォッシュの草むらに流れ込む風にいっせいにさんざめく様子は、言葉でいいつくせない見映え。

 メサの上にはいつも小さな風が吹いていて、涼しい空気が滑るように絶え間なく山肌を渡っていくけれど、広々としたこの空間の静けさを乱すことはない。大きく口を開けた峡谷の脇を通れば、その中で起きていること何であれ(落雷、松の葉をくぐり抜ける風、どしゃぶりの雨)、晴天のときも雲におおわれているときも、それを見聞きすることになる。通過している間、ちょうど村の中央通りに向けて開いた家のドアから漏れ聞こえる大騒ぎを耳にするような感じだけれど、それが散歩人の孤独を妨げることはない。


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