5. ショショーニの地

ショショーニの土地へは実際に行ったことがあるけれど、それより前、ずっと前に、ウィニナップの目を通して、バラ色の追憶のかすみの中にそこを見たことがあった。そして今もそこを、ウィニナップがかけた魔法の光の中に、親愛の情をもって見ているのだと思う。パイユートの集落の金色に輝く丘の斜面にすわって、ビター・レイクの向こうにそびえるムタランゴの山々の紫色の頂を望みながら、まじない師ウィニナップは幸せの地について一つ一つ、それが話の海原に浮かぶ天国の島々であるかのように語った。男はショショーニに生まれながら、名前はウィニナップといった。自分の名前も妻も、子どもたちも、そして部族内の縁故もすべてパイユートのものであったけれど、その心はショショーニの土地に向けられ懐かしんでいた。ひとたびショショーニに生まれた者は、死ぬまでショショーニである。ウィニナップは用心深くパイユートにまぎれ住んでいたけれど、心の内では皆を嫌っていた。男は話そうと思えばなんとか英語がしゃべれたし、ショショーニの土地のことならいつでも進んでしゃべった。

 男は人質として、両部族の平和維持のためにパイユートにやって来たが、その平和は白人権力者の管理の元、長らえることになった。今は、部族内に昔のような体制もなく、男を拘束する力もないけれど、自分の名誉と今は亡き親族との約束を守るため、昔の習わしのままこの地に留まっていた。自分の子どものそのまた子どもたちをパイユートの境界のあたりで見たことはあったけれど、それよりも、目の前に広がる沙漠と虹色に染められた故郷の山並みを心から愛でた。人質となってから故郷の風景を見たことはないと男はいう。でも、毎年、雨の季節が終って南からの照りつける太陽にこの地がおおわれる前に、まじない師は薬草穫りに山に分け入るのだが、そこから戻ってきたときの生気を取り戻したような様子やいつもの思い出話が鮮やかさを増していることから、男がショショーニの土地に一人で、誰にも見られずに入ったことがわたしにはわかった。

 パイユートの集落からショショーニの地に行くには、潮の満ち引きのない大きな湖のチャプチャプ音を耳にはさみながら南へ南へと下り、それから少し東よりに進路をとり、セージの原が何キロもつづく波うつ丘を越えていく。そうやって虹色の丘の国に到着する。そこは赤いすり鉢状の古い噴火口や、手つかずの鉱物性の地層、苦い味のする湯の池があり、鱗のような地面から蒸気が噴出しているところ。丘を越えると黒岩が、噴火口を越えると大量に積もった溶岩と火山灰が、それから壮大な切りたった断層の曲がりくねりが現われる。断崖の表面に深く刻まれた壁絵があって、不案内な人のために道が標されている。黒岩の一番端まで行くと、地面が大きな盆地に向かってすべり落ちていくが、そこからがショショーニの土地だ。


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