ポケットハンターは自然の暴力、人間の暴力による破壊をたくさん見てきた。そして自分は、人を生かすも殺すもできる全知全能の何かの手の中に委ねられていると感じていた。でも病気による死については、そんなことは起こらないと信じる以外、どうしようもなかった。山の片斜面全部の地形を変えてしまうほどの嵐が何度も来た年、男はグレープ・ヴァイン峡谷にいた。一日中、嵐の大翼の下で追われるように歩き、抜け駆けできないものかと足を速めたが、夜になるまで共に旅をするはめになった。その後も雨は降りつづき、やむことなしの土砂降りだったに違いない、と男は思うのだが、ぐっすり寝込んでいたので確かなことはわからない。嵐の方はと言えば、まったく眠りにつかなかったのだが。夜半、丘の背後の空が雨で溶けた。嵐のうなり声が押し寄せ、男の夢と混じり合い、夢うつつのまま男は起き上がり、嵐の通り道から退いた。何が最後に目を覚まさせたかといえば、激しい水流に押し流された木の幹が折れた音だった。泡立ち渦巻く水流が男を打ちつけ、水の壁が行き過ぎるまで必死になってそばの薮木にしがみついていた。水流はビル・ゲリーの小屋を押し流し、ビルをさらって11kmも先のグレープ・ヴァインの河口の砂州に打ち上げた。太陽が昇り、怒濤の雨が収まったところで、ポケットハンターはビルを見つけ、土に埋めた。この男は自力で助かったとは露ほども思わず、理解を越えた天の力のおかげと信じていた。

 ポケットハンターの放浪の旅は、ホット・クリークの向こうの不思議の国にまで及ぶことがあった。そこは神秘の力が、地面の下でモグラのように何かいたずらを起こす土地。そこで起きている現象が何であれ、この地方では悪魔の仕業とされていて、時と季節を選ばず、手段や場所を変えて襲ってくる。それは丘の斜面全体をおおうようにして、熱の悪魔となってじわじわと這い上がり、気づいたときには、松林で木のてっぺんが死んでいる。そして樹木帯のかなり大きな面積を焼き焦がし、また何年か前の噴出層が積もった割れ目のところに戻って、蒸気を噴き上げる。それはときに澄んだ流れの真ん中で、熱い泡だつ青い湯を噴き上げたり、浅瀬で煮立ち人をも飲み込むような流砂となったりもする。このような現象はポケットハンターにとって、自分の近所に噂の的になるような奇妙な家族が越してきたような、恐いもの見たさの興味の種となった。わたしは、こういう話を聞いているときの方が、男が鉱夫仲間から拾ってきた話の燃えさしと迷信を混ぜ合わせたような解説話より、ずっと面白いと思っていた。山の恰好の噂好き、ポケットハンターから「兆しが見えて」や「突き止めて」や「当たりをつけて」などを追いやることができたなら、潮の満ち引きの話、ブラック・マウンテンの松の話、メスキート峡谷のオオカミの話など心躍るエピソードの数々を聞くことができた。多分男は、自分がどんなにこの山の獣たちや木々のことを我が家のように仲間のように感じているか、いつもの場所で出会うことで心満たされているかに、気づいていないと思う。春になればパイン・クリークに降りてきて、土手下の草陰からマスを掻き出すクマのこと、ローン・ツリー・スプリングのジュニパーや、パディ・ジャックスのウズラのことなどを。

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