2. セリソーの水の路(みち)

乾季の終りまでに、セリソーの水の路(みち)はよく踏みしめられ、枯れてうなだれた草地の間を白いリボンとなって走り、地リスやホリネズミ、シマリスなどの巣の前でうっすら扇型に広がっている。人間の目からはうすぼんやりとしていても、そこを通る毛や羽の生えた生きものたちにとっては、はっきりとそれとわかる。ネズミやリス族の目の高さまで屈んでみれば、人の三倍くらいの高さの樹木がうっそうと茂るプランテーションに自分がいて、広くて曲がりくねった道が目の前にあると思うはずだ。やせ地の上に引かれた筋のようなものでも、それが草地の森をとおるネズミ路(みち)だとわかる。小さな民たちにとって、水の路は匂いの看板を掲げた街道のようなものだ。

 人間の目の高さからこの路を観察するのは、どの高さにも増して得るものが少ない。どこか高い丘の上、ブラック・マウンテンの高見にでも登って、上からセリソーの丘を見渡してみるといい。なんと、草が地面をすっかり覆いつくした後でも、長年踏みしめられてきたその跡は、はっきり残っている。二十年ほど前、ブラック・マウンテンの採掘が最盛期だったとき、セリソーを通る駅馬車の道ができた。二本の黒いわだちが高見からはっきりとわかる。それが徒歩でセリソーを通ると、全く見えない。ローン・ツリー・スプリング(一本樹の泉)へ降りていく野生動物の通り道はみな、この高さ(タカの目と同じ高さ)から見て初めて、白い道になって見えるのだ。

 もっとも状態のいい時でさえ、セリソーにはほとんど水がない。あったとしても塩気のある、悪臭のする水だ。それでもセリソーの下の方、低地帯に変わっていくあたりに立っている一本樹のジュニパーのそばでは、青々した草やクレソンが生い茂る中を、きれいなおいしい水の小川が流れている。乾季には、ここの他には、一日の長い旅のあいだ、旅人が水を飲める場所はない。ブラック・マウンテンの東側の麓を南へ、あるいは北へ少し歩けば、小さなげっ歯類(ネズミやリス族)の巣穴がいくつもある。またセージの下にはジャックラビットの浅い巣穴が、間欠川の乾いた土手や、黒砂の散らばる地面には、ボブキャット、キツネ、コヨーテの寝ぐらがある。

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