雪の吹きだまりにできたトンネルを雪どけ水が流れ、そのトンネルの中でキンポウゲが咲いている。砂利土の上で夜にはひざまで凍らせ、何の欲望ももたず、でもちゃんと冷たい氷水の中で実をみのらせている。濡れそぼった小さなポーチュラカや小さくてきれいなシダが、滝のしたたりの下や水に濡れた岩の裂け目で震えている。もっと冷たさが厳しい場所であれば、それは水辺の近くだろうが、カシオペの花にとってさらに好ましい。わたしはまだ白く輝く氷河の切れ端の上でこの花を見たことはないが、風当たりの強い高い崖っぷちの、毋岩が割れて砕けている、野生のヒツジがよく来るところでなら、白いベルの群れがたくさん、密生した草地の上で揺れているところを見たことがある。ヒツジ山、とも呼ばれているオッパパゴーでは、カシオペの寝床からそう遠くないところで、オオツノヒツジが子どもを育てる氷に覆われた石のほら穴を見つけることができる。ほら穴はオオカミの探索やワシの周遊の及ばないところにある。ヒースの寝床は柔らかいとはいえ、それほど乾いているわけでも暖かくもなく、そこはただ、星々が行き過ぎるだけの場所。こんな高地を住処にする生きものは他にいない。でもときどき小さな茶色い生きもの、ネズミ族が岩の間をちょろちょろする気配を感じるかもしれない。この地面暮らしの草食類以外に、厳しい乾燥と高さの沙漠地に、これほどたやすく適応する生きものはいない。もし水の流れがあれば、マスは餌さえあれば湖からのぼってくるけれど、カワガラスは水の流れを愛する気持ちだけで、はるばるやって来る。

 湖は山の最高地点にはないのだから、湖岸より高いところで植生を見つけることは可能だ。多分いちばん高いところには草類が、それからギリアス、ポリモニウムのロイヤルブルーの房、シエラ・サクラソウのバラ色の区画などが続く。高山地帯の花々で知っておきたいのは、太陽による漂白作用。最初の花色を保つのは一日と難しく、保護機能を発する前に起こる色落ちのため、たくましさとは不釣り合いなみじめな見映えを見せる。花畑の色分布は高い尾根にそって走り、青から桃紫色へ、紅色へ、珊瑚の赤へと変化する。水際はミミュラスが鮮やかな色味を見せ、白と黄色でおおわれる。草地の端のところ、オダマキの上限のあたりで、赤と黄ふたつの色彩は出会い混じりあい、黄色が赤の群れの中に走り込んでいく。

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