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気分のいい場所

Comfort Zone by 杨阳(Yang Yang / China Daily)
China Daily: 2012-09-21 07:37
北京で最大と言われるゲイパブ「目的地」で踊る人々(China Daily)

夜の帳がおちて、ミドル・キングダム(中国)の首都はすっと闇につつまれる。すると北京がいつもの表情を変え、ファッショナブルな服を身にまとったように、違った色合いの姿で登場する。古代の都市がビートに乗って、アップテンポの曲を刻みはじめる。多忙な一日を終えて、人々は仮面をはずし、その顔に化粧をほどこす。バーやパブが密集する三里屯(サンリートン)や后海(ホウハイ)で、人々は踊り笑い夜を過ごす。

三里屯からほど近い朝阳区(チャオヤン・ク)にある工体西路(ゴンチシル)通りには、たくさんの人々が(多くはファッショナブルな服に身をつつみ、いい匂いをさせて)目的地へと、足を急がせている。もっと正確に言うならばそれは「目的地(Destination)」という名のパブ、でもよくあるタイプのではない。ゲイクラブなのだ。ただし、どんな性指向の人にも開かれたパブである。

このパブの共同創始者であるエドマンド・ヤンと、その同僚たちはそこを新たな場に、様々なことが展開できる人の集まる場所に変えようとしている。アートの展覧会やいろいろなことを学ぶ教室、読書室、そして小さなHIVのテストセンターがある場に。

「ここに来る90%くらいは同性愛者たちです。だから、彼らがわが家のように思える場所に、ここをしたいんです」とヤンは言う。

「ぼくらはこのパブを単なるパーティ会場ではなくて、いろんな活動の場にしたいと思っているのです。ここに来れば、ただパートナーを見つけるだけでなく、もっといろいろな楽しみが見つけられます。ぼくらの活動は、ここのパブのように、あらゆる種類の人々を歓迎しています。同性愛者も異性愛者となんら変わるところはない、ということを見せたいんです」

「目的地」は北京で最も大きなゲイパブだと言われている。オープン以来8年の間、このパブは何十万もの人々に、友だちと出会ったり、ダンスをしたり、お酒を飲んだりするための場を提供してきた。ハロウィーンのような特別な日には、大きなパーティを開き、いつも千人を超える人たちがやって来る。人々はパブが選んだテーマにそって、ドレスアップしてやって来るのだ。内気な警察官や色っぽいドラッグクイーン(女装した男性の同性愛者)に扮装したお客さんが、ダンスフロアに溢れるという。

そして今、ヤンの野心を実現する場ができた。元々「目的地」は4階建てのビルの2フロアを使っていた。それぞれ750平方メートルを超えるものである。今年の初めに、上の階の映画会社が引っ越しをしたので、ヤンはその2フロアを借りることにした。

上の階の改装は2ヵ月前に終わり、そのスペースはすでにたくさんのイベントを開催してきた。「huMEN's Dream」のタイトルで、二つの展示が3階のアートギャラリーで開かれ、ゲイアーティストの絵や彫像、デザインが出品された。またこの9月には、リウ・ヤンによる絵と彫刻を展示した「Time Regained」と題した展覧会が開かれていた。

4階フロアでは、「目的地」がオーガナイズする無料のレクチャーが開かれ、たとえばメイクアップやダンス、工芸の教室など行なわれている。ゲイの作家たちが招かれて、サイン会をしたり読者と話をしたりすることもある。小姐(シャオチエ)のペンネームをもつ同性愛小説「勇気」の著者も来店している。

HIVについても、何百人もの人がやって来て、ここで検査を受けている。

「どれくらいの数の人がやってきて、ここでテストをやったかとか、何人が陽性反応が出たかなどは、正確に把握してはいません。わたしの目指すところは、ゲイの人たちが気軽に来て、テストを受ける場所を提供すること。病院に行って検査を受けた場合、人はあなたのことをどう見るでしょう」 そうヤンは言う。

「またわたしたちは、人々の自分を守る意識を高め、それを深める機会を得ています。長いことそれをやってきました。そして今は、社会に何かお返しをするときではないか、と考えているのです」

ヤン(31)は18年前に北京にやって来て、そこで働いているときボーイフレンドと巡り会った。今、ヤンを北京に送り出した会社はもう存在しないが、彼との関係は今も良好である。2001年にヤンと友だちが「On-off」というバーを開いたが、創始者たちは店を離れ、バーを閉店した。3年後、ヤンとパートナーは自分たちのパブを開こうと決心した。

「わたしたちは三里屯の近くを意図して選びました」とヤンは言う。「そしてその名を『目的地』にしたんです。それはすべての友だちが、どこにいようと、唯一の目的地はここだ、それがわたしたちのパブだ、ということです」

何年もの間、ヤンと同僚たちはこのパブをより良いものにしようと努力してきた。ヤンは世界中の都市をあちこち旅して、「目的地」でパフォーマンスをする才能の発掘にも努めてきた。

「わたしの多くの友人たちは、海外に行くチャンスをもっていませんでした。それでアメリカや香港から、素晴らしいDJ達を呼んでここで演奏してもらったので、みんながここでそれを楽しむことができました」

ヤン自身、熟練したDJでもある。ここ数年間の彼の腕前は、3ヵ月前に終了した「Remix on CRI Hit FM 88.7」という番組でも証明されてきた。

「わたしは音楽が非情に好きです。ヒップホップ以外のね」

香港に生まれ、中学を英国で終え、アメリカで高等教育を受けたヤンは、北京のグローバル会計会社 PricewaterhouseCoopersの共同経営者である。何年もの間、ヤンはPwCで学んだことを、パブの経営に応用してきた。

「わたしのパブで働く人たちの80%が、2004年からここにいます」 そう言うのは、「目的地」の広報の責任者ユアン・ドンミン。

「ここでは40人の従業員がいて、それ以外に忙しい時間帯のためにアルバイトも雇っています」とヤン。「多くの従業員は地方からやって来た者たちです。ここで働いてお金持ちになることはないとわかっていますが、わたしは彼らに幸せになってほしい、安定した生活を手にしてほしいのです」

「わたしたちは社員に、海外旅行をさせています。それはPwCでやっていたことを真似したんですが、わたしはそれをもっといいものにしたい」

中国における同性愛者への受けとめ方は、外国人が想像するほど悪くはないんです、とヤンは言う。

「ヨーロッパやアメリカ、日本から来た人は、中国人は大変な欲求不満や憂鬱の中で暮らしていると思っているようですが、そういう人たちも、この店に来ると『ワオー!』と言って驚くんです。わたしたちは、外国人が思うほど惨めな暮らしをしてはいません」

「とはいえ、世の中の人々がもっとわたしたちを受け入れてくれるよう、一生懸命働きたいと思っています。そうすれば多くの問題が解決されるはずです。先日、中国人の女性が夫がゲイだと知って自殺した、という記事を読みました。もし社会がもっと開かれていたなら、こういう悲劇はもっと少なくなるのではないでしょうか」




オリジナルテキスト:Comfort Zone by 杨阳(Yang Yang / China Daily)
日本語訳:だいこくかずえ

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「目的地」の共同創始者エドマンド・ヤンは、このパブを多機能センターに変えようとしている(Yang Yang / China Daily)