「あなたがフランス語でルーマニア人の友だちと話しているのを聞いて、がまんできなくて、ずうずうしく話しかけたの、、、」
時間は過ぎていった。ぼくらは話しつづけていた。馬鹿げた考えが心をよぎった。マリカは詩の催しで何か話すことができるはずだ、わたしが招きさえすれば、、、こっけい極まりないけれど、わたしはマリカにそのことを提案した。「できない」 彼女は首をふった。そりゃそうだ、そんなことできるわけがない。さらに、正気とは思えない考えが沸いてきた。マリカをフランスに連れ帰り、無事、学業を終えられるようにすること。いや、それをマリカに言う勇気はなかった。
わたしは立ち上がって、明日できればもう少し早い時間に合えないだろうか、と言った。「いえ、明日はだめ」 マリカは言った。「それは、、、、」 わたしは目をそらした。彼女はもう「先約済み」なんだ、と思った。「先約済み」とは、なんとひどい言葉だ。わたしは彼女の手を握りしめた。マリカはだまって握り返した。
「じゃあ、あさって?」
「そうね、あさってなら」
わたしは振り返りもせずに足早にそこを出た。外に出ると、寒さでふるえた。寒さが心地よかった。少し伸びをした。からだが痺れていた。目を上げた。美しい夜だった。マリカの元で過ごした最初の夜。わたしは足を速めた。ホテルに急いで戻った。通りは人通りもなくさびれていた。いったい何時なのだろうか? 想像もつかなかった。心乱れ、同時に満たされていた。「おまえは、まったくイカレテル」 そう自分に言った。「一事が万事だ!」 そうですよ、と言わんばかりに、猫がそばでミャーオと悲し気に鳴いた。頭をひとなでしてやりたかったが、がまんした。
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