「それで売春婦とはうまくいったのか?」 翌朝ヴァシーレは聞いた。わたしは黙っていた。ほんとうは平手打ちしてやりたいくらいだった。でも彼がわたしに何をしたっていうんだ? わたしを軽くいさめただけだ。唐突にわたしはパリの妻に電話をかけようと思いたった。 
 「どう、変わりない?」 妻が言った。「どうしたの、なんか変よ」
 わたしは飛行機で飛んだあげくに車で長いこと走って疲れているんだ、と言い訳したが、妻は信じていない風だった。
 「心配ないよ、元気だから。ただ着いてからちょっと気分が落ちつかない、それだけだよ」
 子どものことを聞くと、すぐに電話を切った。
 一日は過ぎていった。杓子定規に。とはいえ、アートセンターでフランスから来た他の作家たちといる間、マリカのことをしばし忘れた。ヴァシーレは聴衆にわたしをていねいに紹介した。わたしは短編小説をいくつか朗読した。学生たちの質問はとても面白かった。今日は彼女に会うことはないだろう、そう自分に言いきかせた。わたしはこんなにも良くしてくれるヴァシーレに、先日のわびをする決心をしたが、いったいどうやってことを説明できようか。ヴァシーレはわたしの言いわけを快く聞いてくれたばかりでなく、わたしの本を出そうというルーマニアの編集者がまだ現われなかったので、これから急いで他の編集者にアポイントを取ることもできるんだがと言ってくれた。そうだな、とわたし。古くからのこの友人はわたしをいぶかし気に見つめた。ヴァシーレとは長いつきあいだが、今の状況を、自分をさらけだすことはできなかった。マリカはわたしに対して、話し相手として興味をもった、その 、、、あれじゃなく、、、。信じはしまい、ヴァシーレは笑って、そして何かにつけ口にするフランス語の表現を借りてこう言うだろう。「誰もバラすなんてことはしないさ、おれはそれほどの大物じゃないからな」

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