突然、若い女性(まだ女の子といっていい年齢の)が近づいてきて、こう言った。 "Voulez-vous passer la nuit avec moi?"
 フランス語で問われたこと以上に、それが夜の誘いだったことに驚かされた。不意をつかれた。ヴァシーレはルーマニア語で無愛想に返事した。わたしは、フランス語で、「すみません」と言った。女性は繰り返した、フランス語で、「今夜、わたしのところで過ごしませんか?」  わたしは彼女をもう一度見た。20歳、あるいはそれより少し上くらいか。どうするべきか、何と言ったらいいのかわからずにいたが、「いや、結構です」と自分が言うのを耳にした。
 彼女は笑ってこう言った。「フランス式礼儀正しさかしら」
 わたしは少しどぎまぎしていた、と言わねばなるまい。ヴァシーレはおどけて言った。「行こうぜ、遅れてしまう」  わたしがなかなか動こうとしないので、さらに続けた。「乗るのは君の勝手だけど、それは今夜のことだろ、それまでお預けだ」
 女の子がわたしの目の前でヴェルレーヌの詩の一節を暗唱しているのを横目に、わたしたちは、(わたしは心残りだったが)、歩きはじめた。わたしは振り返り、立ちどまった。ヴァシーレがわたしをひきずっていこうとした。後から追いかけるから、わたしはもぐもぐと言った。ヴァシーレは立ち去るとき、信じられないという目でわたしを見返して、不快そうにルーマニア語で何かうめいた。わたしは目を上げた。彼女はそこにいて、わたしの方をじっと見ていた。わたしは彼女のほうに2、3歩、歩み寄った。彼女は微笑みながら、つぶやいた。

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