III ヴァージン(純潔と影)

 その夜、ぼくが電話を受けたとき、声の主は怯えた声でこう言った。われわれは会わねばならない、どうしても、何としても。
 話している途中でそいつは口を閉ざし、とつぜん会話はとだえた。ひどく無防備な話し振りだった。苦しみもがき、押しつぶされそうな感じ。
 口ごもりながら、こういうデリケートな問題を電話口で口にするべきじゃないとまで言う。仕方なくぼくは彼を家に招いた。
 到着を待つあいだ、この不測の事態を反芻してみた。G(と仮にしておこう)とは3年くらい前に出会った。最初のころは何かとよく会っていた。1年半くらいして、だんだん会わなくなり、そのうちめったに会わなくなった。それがなんでまたとつぜん。これ以上言えないなんて電話口でびくついてたけれど、じつは入念に用意された台詞だったのでは? 3年前、そいつはたいした雄弁家だったんだ。いったいどんな変化が降ってわいたというのか、あいつに。それともぼくに。。。

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