II イリーナ

Sao Iovleffへ

 男は56歳。この1年というもの発作はそれほど起きていなかった。寝室の鏡に映るむくんだ顔を見る。ジャンは自分のことをハンサムだなどと思ってはいないが、このところ鏡を見るのを避けるようになっていた。ため息をもらし、鏡を離れた。作家は(ジャンは自分をこう呼んでいる)、腕時計を見た。まもなく彼女はやってくるだろう。昨日コンファレンスが終わったあと、その若い女性はジャンのもとにやってきて、ジャーナリストだと名乗った。書評誌に何か書いたそうだがジャンの聞いたことのないものだった。彼女の名前はなんだっけ? イリーナだ、、、、ロシア人の名前なのにイタリア語なまりでしゃべってた、そそられる。異国風なものに弱い作家は、この意外な取り合わせに心ときめかせた。イリーナはインタビューの続きをもっと私的な場でやりたがっていた。「ホテルのわたしの部屋でどうだろう。娘ほど年齢のちがう女性と会うのに、これほどぴったりの場所はないのでは?」 作家は悦にいった。で、どぎまぎしつつも、素早くそのように申し出た。美しいイリーナは申し出をかわそうとはせず、「それでいってみましょう」と目を輝かせて答えた。

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