<中継映像 2>
リプレイ映像より、ライブ中継を優先して見せるべき、ディレクターが何を見せようとするかはフィロソフィの問題、とスカパーW杯プロジェクトの田中晃氏はウェブサイトで書いている。今回、スタジアム中空に吊るした俯瞰映像用「スパイダーマンカメラ」を含む32台のカメラが、各スタジアムごとのディレクター、スタッフにより操作、合成され生中継で流された。<中継映像 1>で書いたように、その見え方は革新的で、機器の性能とそれを使いこなす技術者のレベルの高さを感じさせ、新しいスポーツ中継の可能性に出会った思いだった。決定的場面で見せる選手たちの体の動きやアップで捉えた表情も見応えがあった。超スローやストップモーションの再生映像にも惹きつけられた。が、田中氏は言う。優先されるべきはライブの映像である、と。今ここで起きていることをこそ、視聴者にまず見せるべきだと。リプレイや選手のフォーカスをやっている間にも、プレイは進行している。再生映像の背景でボールを蹴る音が聞こえれば、大切なプレイを見逃すのではないかというストレスが視聴者にかかるだろうという。確かに、言われてみればその通りである。再生から生映像に切り替わったときには、もうプレイが進んでしまっていることは確かにあった。再生と生映像との狭間で、ディレクターやスタッフが一瞬一瞬の選択をしていくのはスリリングな作業だろう。大会が進行するに従って、リプレイへの傾斜は減ったという。スタッフも映像を流しながら学んだからに違いない。
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