<実況>

いい実況でサッカー中継を見ることは楽しみを倍加させる。何がいい実況かといえば、見ている試合の進行状況を言葉によって補佐することがまず上げられる。ワールドカップでは全試合ではないが、スカパーは実況を南アフリカのスタジアム内の現場でやっていた。国際映像のフレームに入ってこない出来事や風景も、ときに言葉で伝えられる。その日の温度や湿度、試合前のスタジアムの様子など、現場の状況を言葉で生き生きと伝えてくれると臨場感が増し、これから始まる試合への期待はいっそう高まる。そうなのだ、実況の人は「言葉の使い手」なのだ。試合の進行伝達以外には、チームや選手、レフェリーについての情報やサッカーを取り巻く様々な問題を事前取材して伝える。声の調子やリズム、解説者との息の合い方、話の引き出し方も聞く者にとって快不快の要因となる。倉敷保雄は実況で、ボールをもった選手の名をポンポンと歯切れよく、ボールの動くリズムに乗って呼んでいく。マイナーなチームであっても選手名をすべて把握し、ときにフルネームも交えて瞬時に名を呼んでいくスキルには感嘆する。西岡明彦の実況もすっきり爽やか歯切れよく、実況態度も信頼がおける。海外サッカーの知識が豊富なので、ちょっとしたコメントも聞く価値のあることが多い。世の中で実況のレベルが批評の対象になることは少ないが、地上波の実況のレベルがそれほど高くないことを考えると、もっと注目、議論されてもいいのではないかと感じる。実況の質はサッカーを見る人の質を上げも下げもする。

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