<国歌斉唱>

グループステージ第二節、メキシコ戦の国歌斉唱のとき、フランスの主将パトリス・エブラの頬を涙がつたっていた。セネガルからの移民の子どもで、現在マンチェスター・ユナイテッドで不動のSBを勤めるエブラ。韓国主将のパク・チソンとチームメートにして大の仲良しと聞く。エブラは予選プレーオフでのアイルランド戦で、アンリがハンドを犯して勝ち進むという不名誉な事件があったため、アンリに代わって急遽主将となった。意外なことに前ドイツ大会には出場していないので、今大会が初出場となる。エブラの涙の理由は知らないが、北朝鮮代表のチョン・テセ(川崎フロンターレからドイツのボーフムに移籍)がブラジル戦の国歌斉唱時に一人大泣きしていたことを思い出した。中継の際、スタジオコメンテーターたちはここで泣くか、と失笑気味であったが、泣いていてもテセというのはどこか笑える愛すべきキャラクターである。テセは日本生まれの在日朝鮮人。涙の理由は「祖国と母国とフットボール」(慎武宏著)を読んでいたので想像はできる。アジア最終予選でW杯出場を決めたときも、ピッチで一人大泣きしていたから泣き虫なのかもしれない。ブラジル戦終了後、ピッチを後にするブラジルのカカを追いかけていってユニフォームをねだったというエピソードもテセらしい。対フランス戦で、メキシコ・サポーターたちは国歌斉唱のとき、スタンドで大声を上げていっしょに歌っていて楽しそうだった。自国チームへの愛と信頼が見えた。

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