とりあえず外に出たら気が晴れるだろうと思い、出ようとした途端に大雨の音。
また、バックパックを開けて傘を出すのか・・・面倒くさいなあと思いながら、傘を取り出し、表に出る。
目にしたのは、空のタガがはずれたのかなと思うくらい、帯のようになって降り注ぐ雨。
札幌でこんな雨を見ることはまずない。
流れる水のむこうに風景を眺めていると、建物や木々が、色とりどりのセロファンでできているように感じられた。

その内に、雨の勢いは落ち着き、傘を差して歩いてみる。
軒下で雨宿りする人たちは、誰もあたふたせずに、ゆっくり雨が止むのを待っている。
道路も木々もお店も空もすっかり洗い流されて、色が冴え冴えとしている。
その内に、日が傾き始め、色の濃さを増した日差しが濡れた通りを包み込む。
更に日が暮れると、街頭やネオンの光が水をふくんだ空気に滲み出し、水たまりに写って、ゆらめき始める。

すべてが水をふくんですこし容積を増して、輪郭が少し溶け合っているような、どことなくトロリとした風景。
その中にいると、自分が今タイにいる、アジアにいるということが妙に実感できた。
そしてそれはなんとなく浮足立つようなわくわくするような感覚だった。
そのまま乗ったタクシーの窓からは虹が環を描いているのが見えた。
このあたりでは毎日のことなのかもしれないけれど、旅の初日に幸先がいいなあと嬉しくなった。

札幌にいると、気候や地形的な印象からか、普段自分がアジアにいる、という感覚があまりないのだけれど、
時たま、夏の夕方に雨が降り、路上に車のヘッドライトや、飲み屋のネオンがゆらめき、
信号の色が空に滲んでいる様子などに、はっと東南アジアの色や匂いが重なる時がある。
そんな時、仕事帰りで疲れかけている時でも、自分の中で何かの熱をとりもどすような、
訳もなく何か楽しいことが起こりそうな、自分が旅の始まりにいるような気持ちになって、少しときめく。

12. 雨の中、旅ははじまる〜バンコク(タイ)