眺めている内に、わたしは、地元の女の人達のファッションに釘付けになってしまった。
みんな、カンガと呼ばれる斬新な色使いのプリント生地を身にまとっている。
おばちゃん達はビッグな体にゆったりと、若い女性はスリムな体にぴったり巻きつけて。
巻き方のバリエーションやアレンジも様々で、上下布をまとっている人もいれば、フリースやジーンズに合わせている人もいる。
お洒落に着こなして、頭に大きなかごや小包を乗せて歩いている姿が格好良くて、一人一人を写真に撮りたくなったけれど、とてもカメラを出せる状況ではなかった。
虫よけのリストバンドをしているだけで、遠くからも人が集まり、たちまち囲まれてしまったツーリストの姿を見ていたし、携帯電話にも人が群がっていた。
今回の写真は、バスの車窓からなんとか撮った1枚。

この時に限らず、旅の間、本当に撮りたかった風景は写真には残っていないものが多い。
アジアを走るバスの車窓から流れる一瞬の間に見た村の風景だとか、ジャマイカのスラム街だとか、モロッコの砂漠の星空だとか。
形に残せなかったことを残念にも思うけれど、日本に戻って生活している中、ふとしたはずみで、いろいろな風景がよみがえる瞬間があって、自分の中にたくさんの風景が積もっていることに気付く。
撮らないことで、一層残るものもあるのだなと思う。
そしてそれが、また旅に出てみたいとか、文章で伝えたいというふうに気持をゆさぶっているようにも思う。

 

6. 恋をした国〜セレンゲティ(タンザニア)前編