島をぶらぶらしていると、いろんなミニツアーに誘われる。
ウミガメ達が住む島まで舟で出かけようとか、町の中のイスラムの遺跡を見に行こうとか。
どれも魅力的だったけれど、私達は、イルカと一緒に泳ぐというツアーに行くことに。
ボロボロの車に乗せてもらい、ここならイルカも暮らしているに違いない、それはそれは綺麗な海辺に着いた。
シュノーケルなど渡され、説明もないまま、海に浮かぶボートまで水の中、速歩きするよう言われた。
足もとには岩や巨大ウニがたくさん転がっていて、 痛いったらない。
カメラを持っていたので、転ばないように気をつけながら、イルカと泳げる期待でどうにかボートに乗り込む。
そこからボートを漕いでいくのだけれど、岸から想像以上に遠ざかっていく。
ぎょっとするような高波の中、更にどんどん沖に進む。
私はそれまでダイビングの経験は一度もなく、この時点でシュノーケルの使い方もよく分かっていなかった。
前日に出会った女の子からは、イルカと泳ごうとして、溺れ、救助されたという話も聞いていた。
激しく揺れるボートの上で、添乗していたアフリカ人が指さす方向を見ると、
イルカがジャンプしていた。何頭も、次々に。
いつでも見られる訳ではないようなので、運が良かったのだろう。
さあ、飛び込んでと言われ、海に慣れている友達はすぐに飛び込みイルカに向かっていった。
私も、呼吸の仕方もわからないままシュノーケルをくわえ、海に入ってみた。
私の手はボートにがっしりとつかまったままで、どうしても離せなかった。
この波の中、行って戻って来ることが全然イメージできなかった。
相当迷ったけれど、結局私はボートにしがみついたままで、
様子を見ていたアフリカ人に、引っ張り上げられ、「泳げないのに海に入るな」と叱られた。
その後は、一気に船酔いに襲われ、きらめく海水に、どぼどぼ嘔吐した。

初めてダイビングするには、ハードルが高すぎたから、手を離さなくてよかったのだとは思う。
だけど、思い出したのは、幼稚園に入るよりも前、祖母に連れられ、
町のプールを見に行った時のこと。
小学生達が楽しそうに泳いでいるのを見下ろし、
「もっとおねえちゃんになったら、あんな風に泳げるね」と祖母が言った瞬間、
私はプールに飛び込んだ。
服を着たまま、足も届かない深い水中に。
その後の記憶はないのだけれど、飛び込む瞬間の迷いのない勢いだけを体が覚えている。
 
日常を過ごす中でも、中途半端にためらい、前に進めなくなる時がある。
そんな時、必死に船にしがみついていた自分を思い出して、苦笑してしまう。
手を離すか、船に戻るか、決めなくちゃ。
溺れることが予想できなかった子供の頃の私には、勇気すら必要なかった。
周りに守られている自覚もなく、無条件に安心していた。
それは少し羨ましいけれど、おとなになった私だって、少しの準備と勇気さえあれば、
飛び込めるはず。
もがく自分の後ろには、キラキラ広がる南国の海。
たくさんのイルカがジャンプしていたことを思い出してみたい。

3. 波のむこう〜ザンジバル(タンザニア)