タージマハルは、離れた所から見下ろすと、建物というより、巨大な置物といった趣き。
宇宙のどこかから、インドの田舎町に持ってきて、ドーンと置いたような、唐突な印象だった。
それでも、白い輪郭が、夕焼けのマーブル模様に映える様子はとても綺麗で、
愛した妃のために、ここまで作らずにいられなかった一人の男性の気持ちを感じた。
それは、クレイジーな自己満足だったのかもしれないけれど、
どうにかして、妃への想いを形にして、いつまでもとっておきたかったという、純粋さも混ざっていたのだろう。

どこの国でも、古い建築物や、遺跡など、昔の人が作ったものが今も残っている。
それを見ていると、少しだけ切ない気持ちになる。
今はいない人達の感情を想像すると、現在の私達とそんなに変わらない気がすること。
建物は私達がいなくなった後もきっと残り、別の世代の人達もそれを見ること。
そしていつかは全部なくなる時が来ること。
そういうのがいっぺんに押し寄せてきてしまう。
タイムトラベルができたら、と旅の途中で何度も思った。
そうすれば、旅先の選択は無限になるのになって。
だけど、できないから味わえる切なさや、想像できる楽しさもあるのかもしれない。
頭の中は自由でいられるから。

鳥が輪を描いて飛び立ち、山の木々の中に太陽がぽとりと落下した後
ピンクオレンジの空に、放射状のブルーが差し込んだ。
そして溶け合い、夜の色に深まっていく。
風がそよぎ、いろんな国の旅人が思い思いに夕涼みをしていた。
町のディティールが闇に沈み、三日月と星と青白く浮かぶタージマハル。
昔から今まで、どれだけたくさんの人が、これとほとんど変わらない風景を見ただろう。
その時何を考えていたのだろう。
未来に暮らす人達も、今いる私達のことを想像したりするのだろうか。
そんなことを思っていると、時間を超えて、果てしなく、空に吸い込まれそうになった。

1.夕暮れの空へ〜アーグラー(インド)