となりのテーブルの友だちが言う。「あのね、アメリカではね、家の中でかさを開いておくと不幸を呼ぶって言うのよ」そいつのかさは、テーブルの下のきたない床に寝そべっている。「なわけない」とぼく。「雨を乾かすだけさ。雨ふりの国では百万回って試されてるさ」

カフェの隅っこに
ぼくのロシア傘が
開いてる、濡れたまま

in the corner of the cafe -
my russian umbrella
open, still wet




となりの屋根に
カエデの種が
波の上にひとつずつ

maple tree seeds
on the next house's roof
wave by wave


ユニバーシティ通りをわたろうとして、標識に気づいた。「注意!目の見えない、耳の聞こえない学生がいます」。ぼくは立ちどまって、吹きだした。そしたら角をまがってきた車にはねらそうになった。



      からっぽのキャンパス
      電線でスニーカーがぶらぶら
      靴の主はどこに飛んでったの?

      empty campus;
      sneakers dangling on the wires,
      what sky does your host fly?


アレクセイからのメール
(Tue,7 Dec 1999 19:56:28 + 0300):

おかしなことだけど、ロシアの大学生っていうのはみんな、試験の直前になると、盲目で耳が聞こえない人みたいになってしまう。勉強、勉強、勉強で、道を歩いているときでさえ、まわりが全く見えてない状態。この俳文はウエスト・ヴァージニア大学の一ロシア人留学生(つまり、ぼく)の話です。



雨がやんだその瞬間
かさを開いた人たちは
ぼくらの笑いがわからない

the rain just stopped
people with open umbrellas
don't know why we smile

=back=