ハイパー・ハイク


きのう、モノンガヘラ川のそばにすわって、ハイクを基本にした詩の可能性について考えていた。このアイデアはとりたてて新しくはない。俳句芸術は連歌から生まれたものだ。連歌の中では、俳句(発句)は全体を構成し、つなげていく要素としての詩で、近年になってから独立した詩の様式となった。連歌をモザイク画にたとえて言えば、俳句は小さな色ガラスの破片ということになる。こういう破片をいろいろいじった後で、集めてモザイク画にしてみるのは、おもしろそうだ。連歌型のモザイクにかぎらず、他の型も可能なら、それもいい。ここ5年くらいの間、こういったものを作ってみていた。たとえば日本式ソネット。3つの俳句と1つの短歌(3+3+3+5=14行で、一つのソネットになる)からなる詩作品。韻もふまれている。

で、きのう、川のそばにすわって、いままでのものとは全く違う形式のものをつくろとしていた。ぼくが考えついた形式(人のマネじゃないっていう意味で)を「ハイパー・ハイク」と呼ぶことにする。アイデアはシンプル。知られているように、俳句というのは、面白いことばを並列するのが基本。たいてい二つの要素があって、それによって鋭い本質やその関係性の力学が示される。カエルと古池、カタツムリと富士山、というように。もう少し簡単に言えば、3行構造の俳句は、3つの仕掛けからなる。つまり、1行に1要素(あるイメージ、もうひとつのイメージ、その関係)。ハイパー・ハイクは3行構成ではなくて、3つの俳句でこれがなされるハイク。ひとつひとつのハイクは、ふつうの俳句の一行にあたる。例をあげてみよう。


      雨つぶが
      あの娘のメガネに
      春だな

      raindrops
      on her glasses: spring
      is coming


とけた雪だるま
お日さまに はむかうには小さすぎ
隠れるには 大きすぎ

melting snowman:
too small to fight the sun,
too big to be unnoticed


      バレンタインの翌日
      赤い花びらは 床に
      ほうきは 部屋の隅に

      day after Valentine's -
      red petals on the floor, and
      a broom in the corner


ハイパー・ハイクを精製しているときは、ふつうの俳句の書き直しと違い、一つのことば、一行を入れ替えるだけではない。一個の俳句をまるまる捨てさって、新しい俳句をそこに置くなんてこともする。次の作品は他の俳句との組み合わせで、ハイパー・ハイクみたいになるように、書き直してみたもの。


      らんの花いっぱい!その中で
      メガネの女の子が
      花の名をひとつひとつ写してる!

      orchids ! among them -
      a girl with glasses trying
      to copy all names !


ほこりだらけのスイセンの花
仕事への道ばたに
きのうも今日も

a dusted daffodil
on the way to my job
every day...


      草刈り人のくつの上に
      プランテーンの種が
      いい旅をね!

      on the grass cutter's shoes -
      plantain seeds:
      bon voyage !

このちょっと変わった詩の形式は、ハイクを書くペースが遅くなってきた詩人、シンプルな一つのイメージの詩にあきてきた人なんかに役に立つかもしれない。そういう人は昔の作品をハイパー・ハイクに作りかえて遊んだりできる。ハイク・マガジンのエディターのひとりは、雑誌の中であつかうハイクを、どう並べるかでいつも迷うそうだけど、ハイパー・ハイクがこの悩みを解消してくれるかもしれないし、投稿者とエディターが同等の創造力をもってることを見せる方法にもなる。さらに、もっと複雑な連歌の遊びが可能かもしれない。つまり最後の一句につなげるだけでなく、二つの結末へとつないでもいいってこと。じゃ、最後にもうひとつ例を。これも同じハイパー・イメージで。


パラパラ、と思ったら太陽
その瞬間 白髪の女性
ブルーのかさをさす

sprinkling, then the sun
and a grey-haired lady
with her blue umbrella open


      となりの人の車は
      マツの葉でいっぱい
      インディアンサマー

      neighbor's car
      covered with dry pineneedles-
      indian summer


あくびのウェイター
落ち葉を 掃きだす
ぼくのテーブルの脇から

yawning waiter
sweeps off yellow leaves
from my side of the table


ここまで読んだぼくの友だちが聞いた「で、つぎは何がはじまるの?27行詩とか?」。ぼく「どういう意味、つぎって?もう27行詩を読んだじゃないか。9行の後にコメントがついてたけど」。「えー」と彼。「そういうことか!じゃ、つぎは81行?」そいつはぼくをからかい始めてるなと思ったから、こう言ってかわした。「いや、つぎのは三次元もので、文字はすべてそれによって色分けされてるんだぜ」。

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