夜がとけてく
ひっくり返すたび
まくらの冷たい側に

night thaw;
turning over, to
the cooler side of the pillow




分厚い本をたかく積み上げた、ぼくの部屋のまん中に。そのそばに、ねころんで、タイトルを読みあげる。ケンブリッジ言語百科事典、細胞ロボットと複雑系、現代ロシア詩選、日本古典散文集11〜14、ブーニン、ヴェラー、バッハ、ナボコフ、マリエンゴフ、フロイト、ニーチェ、マヤコフスキー。ブロードスキーの『1以下』、グリーネの『コメディアンたち』。GRE準備ガイド、ストラガトスキー、辞書2冊。だれかが見たら、ぼくは読書中にみえるかな。でも実は、はがきを作ってるんだ。いま描いた絵を、ボール紙にニカワではってるところ。本は重しにつかう。よし、準備オーケー。本のたばをバンとおろす。。。あー、チクショー。小さな泡ができちゃったよ、絵とダンボールの間に。でももう、出しにいかなくちゃ。


      バレンタインデー
      真っ赤なつけツメした
      電車の中の女

      Valentine's day -
      red fake nails
      of that woman on the train





ヘッドライトが行き過ぎる
木々の影が
寝室の窓をなでていく
ぼくの顔には
キミの濡れた髪

headlights passing by -
shadows of trees
brush my bedroom window;
your wet hair
on my face



アメリカに来るまで、ウィンド・チャイム(風鈴)の音を聞いたことがなかった。でも最初にそれを聞いたとき、なんか懐かしいような気になった。なにがそうさせるのかは、わからなかったけど。いまはわかる。何年か前に、リトアニアで、「十字架の山」とよばれる所に行った。その場所とその儀式がどういう関係だったのか、正確には覚えていない。こんなようなことだったかな。ビジネスを始めようとする人や、願いごとをする人が、山の上に十字架を置く。大きなものを置く人もいる。ふつうは小さな十字架をもってきて、大きな十字架の腕にかけていく。まるで、まがりくねった道のついた、丘の上のこんもりした木立ちのようだ。音もする。やさしいチリンチリンという何百もの十字架が風にゆれる音。


      日暮れの雪景色
      口笛を吹きつづける
      ウィンド・チャイムみたいに

      snow in the dusk -
      whistling I continue
      the tune of the wind-chimes





クレーンのくさび
風見鶏のむこうで、反対向いて
4月の空よ


a wedge of cranes
over a weathercock: opposite ways
in april sky





      月 
      (が、に)
      めくばせ


      moon
      wink


アレクセイいわく、このハイクは、ダブルミーニング(2通りの意味)で作ったものとか。読者がイメージを完成させるようなミニマルなハイクは、アレクセイの好みだそうです。2通りの解釈、わかりますか?ひとつは、三日月の前を雲が通り過ぎるとき、月がウィンクしたように見えることを描写しています。もうひとつは、長いこと月を見ていると自分がまばたきしてしまうことだそうです。さらにもう一つ、三つめのイメージとして、夜の空が大きな黒い生き物だとすると、満月はその生き物の目。でも目は一つしか見えない。そう、もう片一方はとじている、つまりウィンクしているというわけ。

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