丘陵地帯へとしばしば足を踏み入れる人なら、こんなことは言わない。もし雨が降ったらどうする? 頂上近くではいつでもどこでも雨は降るのだ。雨を避けようとすることこそおかしなこと。植物は雨から花粉をどうやって守るのだろう、と考えるかもしれない。ペントステモンのようなノドの深い鐘型の花がどれくらいあるか、オダマキのように頭を振ることのできる花小柄をもつ花がどれくらいあるか、薮や茂みの陰で育ち、そういう所でしか成長しないものがどれだけあるかを見てみるといい。夏の峡谷の通り雨には強烈な歓喜がある。高地で濡れても何の害もない、ということを経験から知っていればなおのこと。暖かな一日。白い雲が峡谷の向こう側から見張っていると思ったら、尾根のどこかの風の通り道を抜けて回り込み、あなたを照らす太陽を覆い隠す。次の瞬間、幅広葉っぱのヘレボルスを雨太鼓が打つ音が聞こえ、小川のそばのミミュラスの上にも雨粒が落ちてくる。

 そこであなたは、羽を閉じて休む蝶や急ぎ足で駆け込んでくる小さな生きものたちといっしょに、大きな松の陰に隠れる。氷河のかけらから流れてくる雨水が、松葉を縁どりながら小川へと流れ込む。流れが岸辺で泡立ち、水位を上げる。空が雲で白くなる、空が雨で曇る、空がきれいに澄みわたる。夏の雨は何も跡を残さない。

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